謙譲語Ⅰの基本と使い方の主なパターン

謙譲語は基本的に自分をへりくだることによって相手に敬意を表します。この謙譲語、敬語の指針により謙譲語1と謙譲語2に分かれました。自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べるのが謙譲語Ⅰです。それでは、謙譲語Ⅰの基本と使い方の主なパターンについて紹介します。


謙譲語Ⅰの具体例

伺う、申し上げる、お目に掛かる、差し上げる
お届けする、御案内する
(立てるべき人物への)お手紙、御説明

行為についての謙譲語Ⅰ

「先生のところに伺いたいんですが」と言う場合、「先生のところに行きたいんですが(先生のところを訪ねたいんですが)」と同じ内容です。「行く(訪ねる)」の代わりに「伺う」を使うことで、「先生」を立てる言い方になります。「伺う」のように、向かう先に対する働く敬語が「謙譲語Ⅰ」です。

*「伺う」は、「行く(訪ねる)」「聞く」「尋ねる」の謙譲語Ⅰとしても使われます。

向かう先について

「先生にお届けする」
「先生を御案内する」

などの「先生」は向かう先ですが、

「先生の荷物を持つ」
「先生のために皿に料理を取る」

という意味で

「お持ちする」→「あ、先生、そのかばん、私がお持ちします」
「お取りする」→「先生、お料理、お取りしましょう」

と言う場合の「先生」も、向かう先になります。

「先生からお借りする」

の場合は、「先生」は、物の移動の向きについて見れば向かう先ではなく、「出どころ」ですが、「借りる」側からは、「先生」が向かう先だと見ることができます。

「先生からいただく」
「先生に指導していただく」

の場合の「先生」も、「物」や「指導する」という行為について見れば、「出どころ」や「行為者」ですが、

「もらう」
「指導を受ける」

という側から見れば、向かう先となります。そのため、これらも謙譲語Ⅰとなります。

名詞の謙譲語Ⅰ

「先生へのお手紙」
「先生への御説明」

のように、名詞についても、向かう先を立てる謙譲語Ⅰがあります。ただし、

「先生からのお手紙」
「先生からの御説明」

の場合は、行為者を立てる(*)尊敬語です。このように、同じ形で、尊敬語としても謙譲語Ⅰとしても使われるものもあります。

「立てる」とは(*)

謙譲語Ⅰを使う心理的な動機は、

「向かう先の人物を心から敬うとともに自分側をへりくだって伝える場合」
「その状況で向かう先の人物を尊重する伝え方を選ぶ場合」
「向かう先の人物に一定の距離を置いて伝えようとする場合」

など、様々な場合がありますが、謙譲語Ⅰを使うと、向かう先の人物を言葉の上で高く位置付けて伝えることになります。「言葉の上で高く位置付けて伝える」という共通の特徴をとらえる表現が「立てる」です。尊敬語の「立てる」と同じ性質です。ただし、尊敬語と謙譲語Ⅰとでは、「行為者」を立てるのか、「向かう先」を立てるのかが違います。

立てられる人物について

「先生のところに伺いたいんですが」

と伝える場合には、立てられる人物には、3つのパターンがあります。

1. 「先生」に対して、直接伝える場合
2. 「先生」の家族などに対して、伝える場合
3. 友人などその他の人に対して、伝える場合

謙譲語Ⅰを使うことによって立てられる向かう先の人物は、

1. の場合、「話や文章の相手」
2. の場合、「相手の側の人物」
3. の場合、「第三者」

となります。以上のように、謙譲語Ⅰは、「相手側または第三者」を向かう先とする行為・ものごとなどについての敬語です。立てられる人物が状況や文脈から明らかな場合には、それを言葉で表現せずに、ただ「伺いたいんですが」「御説明」「お手紙」などと伝える場合もあります。

行為者について

謙譲語Ⅰの行為者については、次のような使い方が一般的です。

1. 「先生のところに伺いたいんですが」のように、「自分」の行為について使う。
2. 「息子が先生のところに伺いまして」のように、「自分の側の人物」の行為について使う。

このように、謙譲語Ⅰは、一般的には、「自分側」から「相手側または第三者」に向かう行為について使います。ただし、謙譲語Ⅰには、次のように使う場合もあります。

3. 「田中君が先生のところに伺ったそうですね」のように、「第三者」の行為について使う。
4. 「鈴木君は先生のところに伺ったことがありますか」のように、「相手側」の行為について使う。

3. 4. は、「自分側」からの行為ではない点は1. 2. と異なりますが、向かう先の「先生」を立てる働きを果たしている点は1. 2. と同様です。また、3. 4. では、行為者の「田中君」「鈴木君」は、向かう先の「先生」に比べれば、この文脈では「立てなくても失礼に当たらない人物」ととらえられています(「田中君」や「鈴木君」が友達の場合)。

このように、相手側や第三者の行為であっても、その行為の向かう先が「立てるべき人物」であって、かつ行為者が向かう先に比べれば「立てなくても失礼に当たらない人物」である、という条件を満たす場合に限っては、謙譲語Ⅰを使うことができます。

謙譲語Ⅰの主なパターン

次に、謙譲語Ⅰの主なパターンをみていきましょう。

1. 動詞の謙譲語Ⅰ

動詞の謙譲語Ⅰには、「訪ねる→伺う」のような変換型と、「届ける→お届けする」「案内する→御案内する」のように広くいろいろな語に適用できる一般形の2つがあります。

1-1. 変換型の主な具体例

訪ねる→伺う
尋ねる→伺う
聞く→伺う
言う→申し上げる
知る→存じ上げる
会う→お目に掛かる
見る→拝見する
借りる→拝借する
上げる→差し上げる
もらう→頂く
見せる→お目に掛ける、御覧に入れる
持つ→お持ちする
届ける→お届けする

*「存じ上げる」は、「存じ上げている(います、おります)」の形で、「知っている」の謙譲語Ⅰとして使います。否定の場合は、「存じ上げていない(いません、おりません)」とともに、「存じ上げない」「存じ上げません」も使われます。

1-2. 一般形の主な例

お(ご)〜する(*1)
お(ご)〜申し上げる(*1)
〜ていただく(読む→読んでいただく、指導する→指導していただく)
お(ご)〜いただく(読む→お読みいただく、指導する→御指導いただく)

「お(ご)〜する」「お(ご)〜申し上げる」を作るための基本的条件(*1)

「お(ご)〜する」「お(ご)〜申し上げる」を作る上で注意する点があります。「お(ご)〜する」「お(ご)〜申し上げる」は向かう先を立てる謙譲語Ⅰなので、向かう先の人物がある動詞に限って使うことができます。例えば、「届ける」や「案内する」は向かう先の人物があるので、

「お届けする(お届け申し上げる)」
「御案内する(御案内申し上げる)」

という形を作ることができるが、

「食べる」
「乗車する」

は向かう先の人物がイメージできないので、

「お食べする(お食べ申し上げる)」
「御乗車する(御乗車申し上げる)」

という形を作ることはできません。また、向かう先の人物があっても、

「お憧れする(お憧れ申し上げる)」
「御賛成する(御賛成申し上げる)」

のように、慣習上「お(ご)〜する」「お(ご)〜申し上げる」の形が作れないケースもあります。

「お」「御」の使い分け

一般的に、動詞が和語の場合は

「届ける→お届けする」
「誘う→お誘いする」

のように「お〜する」となり、漢語サ変動詞の場合は、

「案内する→御案内する(御案内申し上げる)」
「説明する→御説明する(御説明申し上げる)」

のように「ご〜する」となります。

1-3. 可能の意味にする場合

動詞に可能の意味として、謙譲語Ⅰにするには、まず謙譲語Ⅰの形にした上で可能の形にします。

「行く→伺う→伺える」(変換型)
「届ける→お届けする→お届けできる」(一般形)
「報告する→ご報告する→御報告できる」(一般形)

2. 名詞の謙譲語Ⅰ

一般には、「(先生への)お手紙」「(先生への)御説明」のように、「お」「御」を付けます。ただし、「お」「御」のなじまない語もあるので、注意が必要です。このほか、「拝顔」「拝眉」のように、「拝」の付いた謙譲語Ⅰもあります。

名詞の謙譲語Ⅰの具体例

「先生へのお手紙」
「先生へのご説明」

の場合、「手紙」も「説明」も自分側に属し、向かう先もはっきりしてるので、謙譲語Ⅰになります。ただし、「先生からのお手紙」「先生からのご説明」は、相手からの行為になるため、尊敬語となります。ただし、「拝見」「拝借」などは、「拝見する」「拝借する」のように動詞として使う方が一般的です。

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