交渉上手の「タイムリミット」活用法! プロ弁護士の交渉心理学

交渉などの心理戦において、相手に教えてはいけない情報があります。それは自分のタイムリミットです。今回はプロ弁護士で交渉の達人である石井琢磨さんにタイムリミットを活用した交渉心理学を紹介してもらいます。


■タイムリミットは秘密にする

交渉をまとめないといけない期限がある場合、これを相手に知られると弱みになります。当然、足元を見られます。

車が壊れてしまって今すぐ買い換える必要があるお客さんと、来年には買い換えたいと考えているお客さん。後者よりも前者のほうがタイムリミットが迫っており、売りやすいはずです。

■タイムリミットが知られている場合

弁護士である石井さんがこのタイムリミットを最も意識するのが刑事弁護の示談交渉です。逮捕された加害者の弁護人として、被害者と示談交渉をする際、タイムリミットがあるケースがほとんどです。

検察官が刑事裁判にするか、起訴しない方向にするか決める期間内、たとえば10日以内に示談ができるかどうかで、処分内容が大きく変わることがあります。

10日以内に示談をまとめなければならない、というタイムリミットは、加害者側にとって弱みとなる情報です。しかし、多くの刑事事件で、このタイムリミットは相手に知られています。通常の交渉なら相手に教えない弱点が、最初から知られてしまっているのです。

■交渉を決裂させる選択肢が強い

このようにタイムリミットが相手に知られてしまっている場合、希少性の法則(現品限り、限定品などの希少価値があると感じると、つい手に入れたくなってしまう心理)を使って、逆境を逆手にとる方法があります。期限つきのオファーを出すのです。

こちら側が提示するタイムリミットまでに解決できるなら、この条件をのむという主張です。「10日以内に示談できるなら30万円をお支払いできます。ただ、その期限を過ぎた場合には、撤回します」

というオファーを出します。このような期限つきのオファーを出す場合、注意点が2つあります。

■期限付きオファーの注意点その1「交渉決裂の選択肢」

この期限付きオファーをするには、こちら側に交渉を決裂させるという選択肢がないといけません。少なくとも相手に対してはそのように思わせないといけません。

交渉では、「決裂したらしたで仕方ない」と考えている側が有利です。決裂させる選択肢は強みです。期限つきのオファーは、期限が切れたら交渉決裂となるリスクを含みます。こちら側が「決裂したら仕方ない」と考え、相手側が「決裂させたくない」と考えるときには強いです。

刑事事件の示談交渉では、10日という加害者側のタイムリミットを被害者側が意識し、相場が30万円なのに、100万円を吹っかけられることがあります。そのような場合、加害者が「そんなムチャな請求されるなら、もう示談はいいです。刑事処分を受けます」と開き直ることがあります。

こうなると、被害者としては30万円の示談金すらもらえないことになります。示談金を取るためには、加害者に対してわざわざ民事裁判などの手続をとらないといけなくなります。このような場合、加害者の弁護人としては期限つきのオファーを出し、被害者に合理的な判断を求めていくのです。

■期限付きオファーの注意点その2「相手に期限を納得させる」

期限つきオファーを出す場合の注意点2つ目は、「期限には納得感が必要だ」という点です。相手から見て、「なぜ、その期限までに応じなければいけないのか」と疑問に思われてはいけません。不信感を抱かれてはおしまいです。

被害者「なんで10日以内に決めなきゃいけないんですか!」
弁護士「じつは、本人にお金がなく、叔父さんから立て替えてもらう予定なのです。叔父さんは、10日間で早く解決できるなら、ということを条件にお金を出すと言っているのです」

理由なく「10日以内に応じてくれるなら、この条件でいいよ」などと上から目線で言っても、相手に圧迫感を与えるだけです。相手が納得する理由をつけましょう。

「このチャンスしかない」という考えは、問題を解決する際に役立ちます。裁判でも、年末や担当裁判官の転勤直前に和解がまとまることが多いです。和解をまとめたい裁判官が主導的に動くという理由もありますが、

「年内に解決して気持ちよく新年を迎えるチャンス」
「今まで担当した裁判官の下で解決するチャンス」

を失うことが怖いのです。これも「希少性の法則」が働いた解決です。

交渉をするときは、タイムリミットを上手に使いましょう。実際の交渉に役立つ心理学を知りたい人は、「プロ弁護士の「心理戦」で人を動かす35の方法」を参考にしてみてはいかがでしょうか?

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