なぜ武蔵野の本社はみすぼらしいのか?

会社の本社は新築物件やおしゃれさが重視されることも増えてきました。しかし、武蔵野という会社では「あえて」本社はみすぼらしくしています。その理由について株式会社武蔵野の代表取締役社長である小山昇さんに聞きました。


成功者と見られた途端に嫌われる

株式会社武蔵野は経営品質賞を2回受賞し、経済産業省の「IT経営百選」の最優秀賞にも選ばれた優良企業です。取引先や銀行の人はもちろん、高収益企業に経営のヒントを見つけようと全国各地の中小企業経営者が見学に来るなど、多くの人が会社を訪れています。

ここ数年で初めて私(小山)と会った人は、私をただの成功者と見る人も少なくありません。人は不思議なもので、自分より優秀であったり、自分より社会でいいポジションを得ている人が本質的に嫌いです。

友達でもそうです。頭が切れて、金持ちで、スーパーエリートの友人と、ごくごく平凡な人生を送る友人。どちらか一人を選べと言われたら、どちらを選びますか。非の打ち所のないほど美しい恋人と、平凡な恋人、どちらを選びますか。大抵の人は、平凡なほうを選ぶものです。

「綺麗」の「綺」の字は「奇」にも通じます。華々しい人生を送る成功者より、目立たないながらも地道に歩みを進めているような普通の人のほうに、人は安心を感じる。何かのときに頼りになると思える。同じように、天下無敵で会社を大きくしてきた経営者より、大きな失敗を繰り返しながら少しずつ歩みを進めている経営者のほうが人に好かれます。信頼されます。

失敗を隠すなんてもったいない。白日の下に失敗をさらして、多くの人に知ってもらうほうが得なのです。

4500万円の新築より、3500万円の耐震補強

武蔵野の本社を初めて訪れたとき、多くの人は道に迷います。場所は中央線の東小金井駅から徒歩7、8分の住宅街。しかも、古ぼけた倉庫のような建物ですから、まさかここが本社とは思わず、素通りしてしまうんです。

現在、武蔵野の広報担当も、新卒採用の面接を受けに来たときに、それと気づかず素通りしてしまった一人です。真剣勝負の採用面接でさえ本社を見落としてしまうのですから、仕事で訪れる人はなおのこと。うっかり通り過ぎてしまい、「道に迷ったようで…」と、近所から電話をかけてくる人がよくいます。

武蔵野の本社社屋は、相当老朽化しています。もともとは1956年に武蔵野を創業した初代社長、藤本寅雄の自宅ですから。それを改装に改装を重ねてオフィスとして使っています。社長室は藤本の一家が居間として使っていた一室で、晴れの日は富士山も見えます。見晴らしも日当たりもいい和室を、内装にできるだけ手を付けず、鴨居などを残したまま使っています。

社長室の鴨居から上は掃除禁止です。歴史は守るものでなく、積み重ねるものです。創業者や先輩の努力が積み重なって会社の今日があります。「埃=誇り」を大切にしているのです。この本社を建て替える予定はありません。

4500万円で建て替えられる建物を、3500万円かけて耐震補強しました。それは、この社長室があるからです。この部屋は、ダスキンの創業者、鈴木清一と武蔵野の創業者、藤本が一緒に食事をした場所で、二人の匂いが染みています。

これも一つの戦略です。この本社社屋を見た人は、経済産業省の「IT経営百選」で最優秀賞をもらった企業とは夢にも思いません。プレハブ倉庫のようなそっけない外装に、低い天井と心許ないペコペコした床、廊下や階段の壁のそこらじゅうに、社員の始末書や、成績グラフがべたべたと貼られています。今どきのIT企業に多いお洒落できれいなオフィスとは対照的です。

これなら他社の社長や社員が訪れても、「うちの本社のほうがずっと立派だな」と安心します。人は自分より儲けていたり、優れている相手を嫌いになりがちです。逆に、このぼろいオフィスを見せるだけで心のカベが取れて、武蔵野に好意を持ってもらえます。

実はこの本社オフィスのあり方にも、これまでの多くの失敗から学んだセオリーが生かされています。新規事業は今まで見たこともないジャングルに足を踏み入れるようなものですから、オフィス選びにも何度も失敗しました。

古いボロボロの物件を社員がDIYで整えて安上がりに済ませたこともあれば、思い切ってピカピカの新築物件を借りたこともありました。いずれも一長一短、どちらが絶対にいいとは言えません。失敗の積み重ねから、最善のオフィスはケース・バイ・ケースだと分かった。今の武蔵野の姿を象徴するシンボルとしては、現在の本社社屋ほどいい建物はない。それが結論なんです。

いかがでしたか? オフィスは綺麗であればいいというわけではないのです。これ以外にも実際の失敗経験を踏まえたうえでの仕事術が小山昇さんの新刊「小山昇の失敗は蜜の味 デキる社長の失敗術」に紹介されています。気になる人は読んでみてはいかがでしょうか?

    
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