イスラム教の戒律を守る「ハラル」とは何か? ハラルビジネスを実践するために知っておきたいイスラム法

イスラム教徒は全世界で約16億人以上おり、イスラム市場は300兆円超といわれています。(2014年9月現在)。これからはイスラム教徒のハラル市場を意識した「ハラル」ビジネスが大切です。ハラルビジネスを実践する上で絶対に知っておきたいイスラム教徒の戒律である「ハラル」について紹介します。


ハラルとは

ハラル(halal)とは「イスラム教の教義に従っていると判断されるもの」という意味で、すべてのイスラム教徒にとって「ハラルである」ことは必須要件となります。ハラルをきちんと理解するためには、イスラム教の基本を知る必要があります。

イスラム教の基本

イスラム教は7世紀初頭、アラビア半島のメッカに住んでいたムハンマドが大天使ガブリエルを通して神から啓示を授かり、創唱・布教した宗教です。ユダヤ教とキリスト教の流れを汲む一神教で、世界三大宗教の1つに数えられます。

ムハンマドは、旧約聖書に登場するアブラハムやノア、モーゼ、新約聖書のイエス・キリストと同じ預言者、つまり「神の声を授かる者」であり、人々に神の声を伝えて正しい方向へと導く、最後にして最大の預言者です。

イスラム教の聖典であるコーランは、ムハンマドが口述した神の声を文字に書き起こしたもので、アラビア語で「朗唱すべきもの」を意味します。

イスラムの意味

また、イスラム教の「イスラム」は「絶対的に神に帰依すること」を意味し、イスラム教徒の一般的な呼称である「ムスリム」は「神に帰依した人々」を意味します。

イスラム教徒には、唯一神「アッラー」とその預言者であるムハンマドを信じ、聖典であるコーランの教えと、ムハンマドの言行録である「ハディース」に従って生きることが厳しく求められます。

イスラム教の戒律

コーランには、イスラム教徒が信じて守らなければならないこと、行わなければならないことが書かれており、これらをまとめて「六信五行」といいます(イスラム教の戒律であり、イスラム教徒が守るべきルールです)。六信とは「神」「天使」「使徒・預言者」「諸啓典」「審判と来世」「定命」で、五行とは「信仰告白」「礼拝」「喜捨」「断食」「巡礼」です。

信仰告白

五行のうち信仰告白は、家族や知人の前でイスラム教徒になると宣言することを意味します。その際に唱えるのが「アッラーのほかに神はなし。ムハンマドこそアッラーの使徒なり」というコーランの一節で、サウジアラビアの国旗にはこの一節を図案化したものが描かれています。

礼拝

礼拝は1日5回、聖地であるメッカの方角(キブラ)を向いて行います。その際、礼拝者と礼拝する場所は清潔でなければなりません。そこで礼拝の前に顔や口、手足などを水で洗って清めます。

また、イスラム教は偶像崇拝を禁じているため、礼拝堂であるモスク内には神の絵や像などはなく、メッカの方角を正面にした広間があるだけです。

イスラム教徒にとって大事な「行」である礼拝は、5回の礼拝それぞれに名称があり、時間帯が決まっています。

1回目のお祈り:日の出前のお祈り(ファジャル)
2回目のお祈り:お昼のお祈り(ゾフゥル)
3回目のお祈り:没前のお祈り(アッサル)
4回目のお祈り:日没後のお祈り(マグリブ)
5回目のお祈り:夜のお祈り(イシャ)

具体的な時間は、自分がいる場所や季節によって変化するため、イスラム教徒の多くは礼拝専用の時計とコンパスを持っています。近年は地域ごとの正確な礼拝時間表が作成され、インターネットで検索もできるようになりました。

また、礼拝の際に立ったり座ったりするため、多くのイスラム教徒が専用のマット(絨毯)を持っています。イスラム教徒の女性は「ムスリマ」と呼ばれ、髪や顔、体のラインを隠すために「ヒジャブ」などの衣装を着用しています。

スタイルは地域や宗派によってさまざまですが、いずれも「男性の視線から自分を守らなければならない」「男性を誘惑してはならない」という教義にもとづく習慣です。ただし、近年は国や地域によって服装の自由化が進み、マレーシアやインドネシアではスカーフだけを着用する女性や、スカーフさえ着用しない女性も増えています。

喜捨

喜捨は「施し」であり、富める者が貧しい者に財産を分け与えることです。キリスト教や仏教でも奨励されていますが、イスラム教ではそれ以上に大事なことで、財産を強欲にため込むのは卑しい行為とされています。

断食

断食は1年に1ヵ月、ラマダーン(イスラム暦の9番目の月)に行います。この間は日の出から日没まで、一切の飲食が禁じられます。ただし、病人や妊娠中・育児中の母親、子ども、移動を強いられる者は、断食をしなくてもよいとされています。

巡礼

巡礼は、メッカに巡礼することです。1年に1度巡礼月があり、人生に1回はメッカ巡礼をすることが義務付けられています。

宗派

イスラム教には、分派を含めるとさまざまな宗派があります。そのうち二大宗派と呼ばれるのがスンナ派とシーア派ですが、スンナ派がイスラム教徒全体の約9割を占めるのに対し、シーア派は約1割にしかすぎません。

また、スンナ派には「ハナフィー学派」「マーリク学派」「シャーフィイー学派」「ハンバル学派」の四大法学派があり、世界各地に分布しています。

コーラン

イスラム教の聖典であるコーランには、宗教についてだけでなく、日常生活のさまざまな規範についても記述されています。イスラム世界では、ムハンマドの死後、神の意志を判断する手段としてコーランにもとづく法体系が発展しました。

これをイスラム法(シャリーア)といい、イスラム法を学んだイスラム法学者(ウラマー)が人々の日常生活の相談から政治的な指導まで行っています。スンナ派の四大法学派は、このイスラム法学の4つの系統であり、イスラム教徒はいずれかの派に属しています。

イスラム教徒の生活

聖典コーランは、人のためになるものを定め、人に害を及ぼすかも知れないことを禁じています。つまりイスラム教は、人を守り、育てる宗教といえます。その前提には、「人間は本来、意志が弱い存在である」という考え方があります。

イスラム教徒の生活様式は、食品や嗜好品、1日5回の礼拝などを除けば、非イスラム教徒とそれほど変わりません。

イスラム金融

イスラム社会のもう1つの特徴が、人々の暮らしと密接に関連する金融です。イスラム教では利子をはじめ、宗教的に禁止された商品や生産への投資、不確実性をともなうギャンブル的な取り引きなどが禁じられています。

これにもとづく金融システムは「イスラム金融」と呼ばれ、今後の急速な拡大が見込まれる成長市場として、世界中の金融機関が注目しています。コーランには「酒と賭矢、偶像と占い矢は、忌み嫌われる悪魔の業である」という一節があります。

「賭矢」はギャンブルの一種で、「占い矢」は占いの一種です。つまりイスラム教では、酒と偶像に加え、偶然によって結果が左右されるものに財産や運命を委ねることも禁じられているのです。

ハラルマーク

イスラムの考えでは、現世での自らの所業に応じて来世の幸福度が決まります。現世での罪を来世で償わなければなりません。ハラルマークは、責任の所在になります。つまりハラルマークがあるものが、実はハラルではなかった場合、その罪は免れるということです。

イスラム教徒は、日常生活のすべての行為について「神が望まれている行いかどうか」という点を意識しながら生活しています。もっとも、禁じられているものはわずかで、ほとんどの行為は許されているといえます。

つまり、イスラム教の教義で許されているものが「ハラル」であり、禁じられているものは「ハラム」または「ノンハラル」といいます。逆にいえば、禁じられているもの以外はすべてハラルということになります。また、ハラルはイスラム法に適合している「合法的で許されたもの」という意味です。

イスラム教で禁止されている食品

食品については、豚は不浄の動物とされ、食べることも触れることもできません。それ以外にも、獲物を捕獲するための牙や爪を持つ虎や熊などの動物、キツツキやフクロウ、鷹などの鳥類、ロバとラバの食肉が禁じられています。

お酒も禁止

イスラム法では、飲酒も明確に禁じられています。飲酒によって正気を失うことでけんかなどの悪行を働きやすくなり、結果的に家族や周囲の人々を不幸にするからです。また、禁じられているのは酒だけでなく、アルコール全般です。

料理酒を使った和食や中華、ワインを使ったフランス料理はもちろん、アルコール成分を含んだ醤油やソースなどで調理された料理も口にすることができません。つまり、アルコールも料理酒や調味料、香り付けなどに使われているため、イスラム教徒はこうした国で食事をする際には、とても神経質になります。

調理・加工のプロセスにもハラルがある

また、イスラム法にもとづいて正しい作法で屠畜・調理された肉以外は食べることができません。つまり、豚、犬、血液、酒などのアルコール(カマール)、イスラム法にのっとって適切に処理されていない肉などが禁じられています。

このうち豚は、豚肉や内臓、血液、骨、皮、毛だけでなく、ラードやブイヨン、ゼラチン、コラーゲンといった豚由来のものが入った食品を口にすることも禁じられています。日本をはじめとする非イスラム国では、多くの料理にラードやポークエキスなどが使われています。

さらにイスラム教徒にとっては、食品そのものだけでなく、食品の素材や調理・加工のプロセスも「ハラルである」ことが重要です。たとえば牛肉などの食肉に関しては、次のようなルールを守る必要があります。

  • イスラム教徒が正しい作法で屠畜したものでなければならない
  • 解体処理をする前に血液を抜かなければならない
  • 豚やハラル屠畜されていない牛や鶏など、ノンハラルなものと一緒に保管や輸送をしてはならない

このほか、料理を調理する環境にも「ハラルである」ことが求められ、豚肉を調理した厨房や調理器具を使うことが禁じられています。

世界的に見ると、宗教上の教義や信念にもとづいて特定の食品を忌避するのは、イスラム教徒だけではありません。一部のキリスト教徒や仏教徒、ユダヤ教徒、ヒンドゥー教徒、ジャイナ教徒なども含まれ、宗教とは無関係のベジタリアンや食物アレルギーを持つ人もいます。

ハラル食品は安全・安心の証

また、世界的な潮流として、化学肥料や化学合成農薬を使わず、有機肥料などで栽培されたオーガニック農産物への関心も高まっています。その点、健康的で安全、清潔、高栄養で高品質なハラルフードは、単にイスラム教徒だけでなく、すべての人々にとって安全・安心な食品といえます。

食品以外のハラル

ハラルには、食品以外にもさまざまな分野があります。医薬品や化粧品、それらの原材料や添加物、製造ラインやプラント、さらには衣服やおもちゃ、保険や銀行、輸送やサービスなど、生活のすべての面にハラルは幅広く取り込まれています。

ハラル対応はビジネスチャンス

マレーシア人やインドネシア人にとって、日本はあこがれの国です。また、その他のアジア太平洋地域や中東地域にも、日本の四季豊かな自然や美味でヘルシーな食文化、先進のテクノロジーなどに魅力を感じているイスラム教徒がたくさんいます。

それにもかかわらず、ハラル対応が遅れているため、彼らにとって日本が「行きたくても行けない国」となっているのは、非常に残念でもったいない話です。できるだけ早くハラル対応を進め、適切な形でアピールすれば、アジア太平洋地域や中東地域からの売上は確実に増加するはずです。

同席者に1人でもイスラム教徒がいると、周囲は焼肉やしゃぶしゃぶを断念しなければならない。出張で来日したイスラム教徒のビジネスマンは、あこがれの日本料理ではなく、毎日食べているマレーシア料理の店に連れて行かれる状況なのです。

実際、ハラル対応レストランはイスラム諸国の大使館や企業、イスラム諸国と関係のある日本企業の会食の場としてにぎわっています。

ハラルは難しくない

ハラルと聞いて「イスラム教の教義は難しそうだ」と思う方もいるでしょう。しかし、難しくとらえる必要はありません。たとえば日本では、食品などの規格としてJAS(日本農林規格)、工業品などの規格としてJIS(日本工業規格)が制定されていますが、ハラルも同様の規格と考えることができます。

食品に関していえば、ハラルとは食の安全を保証するものであり、ハラルフードとは安心して食べられる良質の食品を意味します。ということは、イスラム教徒だけでなく、世界中の人々が安心して口にできる規格の食品でもあるのです。ハラルと聞いて「イスラム教の教義は難しそうだ」と思う方もいるでしょう。

ハラル対応でイスラム市場へ参入できる

世界的に評価の高い日本ブランドにハラルの要素を付加することで、巨大なイスラム市場の取り込みや市場への参入が可能になります。ただし、ハラル対応さえすればビジネスが成功するというわけではありません。

ハラルは、イスラム市場へのパスポートと考えてください。パスポートがなければ出国も入国もできませんが、最終的にビジネスの成否を決めるのは、商品自体の価値なのです。

これからはイスラム教徒を相手にしたビジネスが大切です。ビジネスの拡大を目指すためにも「ハラル」という考え方を理解することが必要です。

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情報提供:

株式会社ROI

    
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