ハラル認証制度の申請手続き。イスラム市場をねらうためのハラルマーク取得

マレーシアなどのイスラム市場を狙うのには「ハラル」認証を行うことが有効必要です。今回は、イスラム教徒へのビジネス対応に必要なハラル認証制度の申請手続きなどをご紹介します。


ハラル認証制度とは

イスラム教の教義で「食べてはならない」とされているものは、「身体に害を与える」と考えられているものです。食品以外についても同様で、「害となる」ものが禁じられています。そこでイスラム諸国には、イスラム教徒の安全・安心な生活を守るため、「ハラルである」ことを証明する「ハラル認証制度」が多数を運営されていますしています。

その背景には、加工技術などの進歩によって食品原材料の特定が難しくなり、イスラム教徒にとって一目でハラル食品と判断することが困難になってきているといった事情があります。

ハラル認証は、各国のハラル認証機関によって付与されます。世界共通のハラル認証機関はなく、認証取得の難易度や期間は、国や地域によって異なります。国連の下部組織であり、イスラム諸国が加盟するイスラム協力機構(OIC)などでハラルの世界統一規格の検討が行われていますが、まだ合意にいたっていません。ただし、各国のハラル認証機関が相互認証を行うことで、ハラル認証のグローバル化は進んでいます。

最も厳格なサウジアラビア規格

各国のハラル規格のうち、最も厳格とされているのがサウジアラビアの規格で、これに次ぐのがマレーシアの規格です。ただし、総人口のほぼ100%をイスラム教徒が占めるサウジアラビアでは、国内で流通する食品はすべてハラル食品であり、多民族国家のマレーシアとは状況が異なります。

政府機関が運営するマレーシアのハラル認証

マレーシアのハラル認証制度の特徴は、世界で唯一、政府機関が運営している点です。マレーシアはイスラム教を国教とするイスラム国家であり、ハラル規格の審査はマレーシアイスラム開発局(JAKIM)が担当しています。

かつてはマレーシア政府の外郭団内であるハラル産業開発公社(HDC)に移管された時期もありましたが、HDCは現在、マレーシア国内のハラル産業の振興や海外市場の開拓などを担当しています。

イスラム各国のハラル規格や審査法は統一されていないため、ある国で認証を受けた食品などがほかの国でノンハラルとされるケースも少なくありません。また、ハラル規格と審査法が体系化されていない国もあり、そうした国のハラル認証制度は一般に宗教的な色彩が強い傾向にあります。

世界で2番目に厳格なマレーシアのハラル認証制度

その点、世界で2番目に厳格なマレーシアのハラル認証制度は、世界で唯一政府により付与・管理され、世界のハラルハブをめざしています。そのため、イスラム教国やイスラム教徒に信頼され、認証を受けた食品などは受け入れられやすい状況にあります。また、国家規格であるため、宗教色が比較的薄く、非イスラム国の企業にとっても比較的理解しやすい認証制度と評価されています。

ハラルマーク

イスラム教徒にとって「ハラルである」ことは必須要件です。しかし、非イスラム国の日本では、ハラルについての理解や認識が浅いのが現状です。そこで日本に滞在するイスラム教徒が重視するのが「ハラルマーク」です。

イスラム諸国にはそれぞれハラル認証制度があり、イスラム教の教義にのっとって製造されていると承認された製品にはハラルマークが表示されています。このハラルマークを付与しているのがハラル認証機関です。

日本国内では、宗教法人日本ムスリム協会、宗教法人イスラミックセンター・ジャパン(IJC)、宗教法人日本イスラーム文化センター、NPO法人日本ハラール協会などがハラル認証を行っています。

具体的には、それぞれのハラル規格にもとづいて製品の原材料や製造プロセス、製品品質などを監査したうえで、適合する製品に対してハラル認証書を発行しています。ただし、国内のハラル認証機関が発行したハラル認証書がすべてのイスラム国において有効であるとは限りません。

たとえばマレーシアは、自国の規格によるハラル認証制度の信頼性向上を目的として、2013年1月から新たな法令を施行しました。これにより、マレーシア以外の第三国機関の認証を受けて日本で製造されたハラル製品は、マレーシアでは無効とされています。

現在、マレーシアのイスラム開発局(JAKIM)が承認している日本のハラル認証機関は、日本ムスリム協会と日本ハラール協会です。また、UAE(アラブ首長国連邦)向け輸出牛肉のハラル認証機関としては、イスラミックセンタージャパンと宗教法人日本イスラーム文化センターが承認されています。

ハラル認証と海外進出

イスラム市場の規模は、国内よりも海外のほうが巨大です。海外輸出と海外進出、いずれの場合も必須要件となるのがハラル認証です。イスラム市場へ進出するには、どの国のどのハラル認証を取得するかが重要なポイントになります。

東南アジアの各国を見ると、インドネシアにはイスラム指導者会議(MUI)など、タイにはイスラム中央委員会(CICOT)、シンガポールにはイスラム指導者会議(MUIS)、フィリピンにはイスラム宣教会議(IDCP)などの機関があり、それぞれハラル認証を行っています。

これに対してマレーシアは、世界で唯一、政府がハラル認証を行っている国です。イスラム開発局(JAKIM)がハラル認証を承認している機関は、49ヵ国75機関(2013年7月時点)にも上ります。また、マレーシアのハラル規格は、申請者に対してアメリカ食品医薬品局の適正製造基準(GMP)や食品の安全を確保する国際的な衛生管理手法(HACCP)などの要求水準を満たすように定めています。

そのため、マレーシアのハラル認証制度は世界的に最も知名度が高いとされており、イスラム教徒はもちろん、非イスラム教徒にとっても安全・安心な規格となっています。マレーシアでは、2020年までに先進国の仲間入りを果たすため、2010年に「新経済モデル(NEM)」が策定され、政府主導のもとで開発が進められてきました。その1つが、世界のハラル産業の中心拠点となることをめざす「ハラルハブ」政策です。

世界のイスラム市場は巨大ですが、イスラム教徒は東南アジアや南アジア、中東など、世界各地に分布し、宗派や国・地域によってイスラム法の解釈も異なります。そこでマレーシア政府は、すべてのイスラム教徒が一律に利用できるハラル製品の認証制度をいち早く確立したうえで、マレーシア国内での生産や国内外市場での物流・貿易・プロモーションなどを総合的にサポートする体制を構築してきました。

その結果、現在はイスラム諸国と非イスラム諸国をつなぐ重要なハブとしての役割も果たしています。

ハラル認証の取得方法

マレーシアのハラル認証を取得するには、ハラル規格(MS1500)にもとづく厳正な審査をクリアする必要があります。

申請から認証取得までの大まかな流れ

「申請」→「審査」→「審査結果にもとづく評議」→「認証」となりますが、ここでは食品のハラル認証に関する主なポイントを紹介します。

申請書類

申請する際の書類としては、企業や工場などに関する情報、製品に関する情報に加え、食品衛生・品質管理などの情報が求められます。このうち製品関連情報については、使用するすべての原材料と納入業者のハラル認証書に加え、納入業者の製造プロセスなどの情報も含まれます。審査の結果、申請書類に不備があれば、申請は却下されます。

不備がなければ、イスラム法にもとづく宗教審査、さらに現地監査へと進みます。書類の段階で申請が却下される主なケースとしては、申請した企業がハラル製品とノンハラル製品をともに製造している、申請した製品がノンハラルである、申請した製品名がノンハラル製品と似通っている、などが挙げられます。

現地監査

審査において最も重要なのが現地監査、つまり工場や施設などへの立ち入り検査です。申請書類にもとづいて、原材料、加工・製造プロセス、加工・調理器具、保管状況、包装・ラベル貼り工程に加え、食品衛生、品質管理などの状況が重点的にチェックされます。

また、抽出した製品サンプルの検査も行われます。立ち入り検査を行うのは、イスラム法の専門家と食品科学の専門家です。また、加工・製造プロセスに食肉処理工程が含まれる場合は、獣医も立ち会います。

組織体制

製品のハラル性を確保するためには、原材料や加工・製造プロセスだけでなく、それを支える組織体制も整備されている必要があります。そこでハラル規格では、

  1. イスラム教徒のハラル管理者またはイスラム教徒で構成されるハラル委員会の社内設置
  2. ハラル管理者およびハラル委員会のメンバーに対するハラル研修の実施
  3. 社内のハラル管理制度を維持するための十分な経営資源の投入

などが求められています。

ハラル認証取得後

ハラル認証を取得した後も認証機関による定期調査や特別調査が行われ、必要に応じて立ち入り検査も実施されます。また、ハラル認証には有効期限があり、継続して取得するためには更新手続きをして、新たに現地監査を受ける必要があります。

日本国内におけるローカルハラル規格

ハラルは、イスラム市場へのパスポートです。これがなければ、巨大なイスラム市場にアプローチすることはできません。ただし、非イスラム国の日本にとって、ハラル対応が容易でないことも事実です。そこで提唱したいのが「ローカルハラル」規格です。

この規格は、世界的に最も適用度の高いマレーシアのハラル規格をベースに、日本の実情に合わせてローカライズしたものです。マレーシアのハラル規格では、飲食店内でのアルコール類の提供が禁じられています。

また、食材の仕入れ・保管・物流のすべてにおいてハラルとノンハラルを明確に分ける必要があるほか、工場のラインで生産するのはすべてハラル製品でなくてはならず、一部のラインでノンハラルの製品を生産することは許されません。

マレーシア国内ではこの厳格な規格が守られていますが、このままでは非イスラム国の日本でハラル認証を取得できる飲食店や工場は非常に限られてきます。逆にいえば、ハラル認証を取得したことによって、業績が悪化してしまう恐れがあります。

なぜなら、会食や宴会で食事と共にお酒を飲むことは、日本のスタイルであり文化だからです。飲食店側にとってもお酒の販売による利益が占める割合は大きいでしょう。

そのため「ローカルハラル規格」は、マレーシアとインドネシアのハラル認証を管理する資格を持つイスラム教徒が日本の商業環境を考慮して、実現可能なレベルでのハラル対応法を提案した規格です。

この規格では、製造や調理の過程で発生するハラルとノンハラルの混合を防ぐ仕組みが確立されています。また、イスラム教徒にとって最大の禁忌である豚および豚由来とアルコールについては、必要に応じて科学的な分析を組み合わせ、当該製品やメニューに含まれていないことを精査します。

そのうえで、飲食店やローカルハラル製品の利用者に対してこの規格のハラル性を保証し、その説明責任を負います。ローカルハラルは、日本国内はもちろん、海外の商品見本市などへ出品する際にも有効です。また、この規格はマレーシアのナジブ首相にも「おかげで私たちも日本のレストランで国産牛を楽しめるようになった」と認めました。

日本国内でのハラル対応は、無理をせず、できる限りのおもてなしをするという姿勢が大切です。アルコール類は、扱わないに越したことはありません。しかし、売り上げの3割以上をアルコールが占める店では死活問題にもなりますので、その場合は店全体をハラルにする必要はなく、食材とメニューをハラルにすることで対応できます。

日本企業のローカルハラル認証導入事例

具体的な事例としては、加森観光が北海道で運営するルスツリゾートなどが挙げられます。同ホテルは2012年10月、ローカルハラル適合施設の認証を取得。ホテル内のレストランにおいて、「ハラル御膳」や「ハラル牛しゃぶしゃぶ御膳」などのハラルメニューを提供しています。また、加森観光はその後も「アートホテルズ札幌」など、複数の施設で認証を取得し、多くのイスラム教徒観光客を受け入れています。

他もう1つの事例としては、JR京都駅ビル内にある「ホテルグランヴィア京都」のカフェレストラン「ル・タン」です。同レストランは2013年6月、西日本のホテルでは初めてローカルハラル認証を取得。同ホテルでは以前から、イスラム教徒宿泊客のためにメッカの方角を示す方位表や礼拝用マットを用意するなど、イスラム教徒の快適な滞在を実現するための取り組みを行ってきました。また、宿泊施設を伴わない都内のレストランでもローカルハラルメニューを提供し、イスラム圏からのビジネスマンやイスラム国大使館の社交の場となっています。

渋谷の「牛門」や西麻布の「炭やき屋」ではハラルビーフを使った焼肉、渋谷の「花咲かじいさん」ではハラルしゃぶしゃぶ、ハラル御前を提供しています。ハラルビジネスを成功させるには、このようなハラルへの意識の高さともてなしの精神が必要不可欠です。

ハラルとトレーサビリティ

日本の農林水産物・食品は、自動車や電化製品と同じ「メイドインジャパン」として、世界市場で通用する有力なブランドです。また、ハラルとの高い親和性も有しています。その理由は、品質の高さと「トレーサビリティ」にあります。

ハラル食品における重要なポイントは「農場から食卓まで」、つまりサプライチェーンのすべての過程でハラル性が確保されていることにあります。そこで不可欠となるのが、生産段階から最終消費段階までのプロセスを追跡できるトレーサビリティです。

日本では国内産のすべての牛について、出生から消費者に提供されるまでの生産流通履歴情報を確認できるトレーサビリティ制度が確立されています。これはいつでも誰でも情報を得られる透明性の高いシステムで、万一問題が生じた場合は迅速に履歴をさかのぼることができるため、国産牛肉の安全・安心の確保に威力を発揮しています。

また、日本では2001年のBSE(牛海綿状脳症)発生を受け、国内で販売されるすべての牛肉について、脊髄など特定危険部位の除去・焼却が行われており、トレーサビリティ法にもとづく個体識別番号とバーコードの記載も義務づけられています。

牛肉以外の農林水産物・食品についてもトレーサビリティを確保してハラル認証を取得すれば、イスラム市場で広く受け入れられ、結果的にメイドインジャパンの市場が大きく拡大することになります。

情報開示とマーケティング

インバウンドから製品輸出、さらに海外進出というステップは、国内市場が縮小する日本にとっての大きなテーマです。それは同時に、メイドインジャパンからメイドバイジャパンへの展開も意味します。

現在の日本でまず取り組むべきハラル対応は、レストランのメニューを含めた積極的な情報開示です。特に健康食品や離乳食、飲料、発酵食品、菓子、サプリメントなど口にする商品、さらに化粧品やシャンプーといった肌に触れる製品は、迅速なハラル対応が必要です。

原材料などの情報が開示されていれば、たとえハラルマークがついていなくても、イスラム教徒は自分で判断することができます。つまり、日本のトレーサビリティシステムを確立することが、イスラム教徒の安心感につながるのです。

その際、開示すべき情報や適切な表示法については、ハラル監査人に確認してください。また、製品輸出に関しては、いきなり動き出すのではなく、まず日本国内に67ヵ所あるハラルショップでテスト販売をしてみる、またはマレーシアの展示会などに出展して反応を見てみるといったステップを踏むことが大事です。

ハラルはイスラム市場へのパスポート

事実、拡大するハラル食品市場をねらって海外のハラル認証を取得したものの、マーケティング不足のせいで製品がほとんど売れなかったという事例もあります。ハラルはイスラム市場にアプローチするためのパスポートであり、これからの日本を元気にするポテンシャルを秘めています。

ただし、ハラル対応さえすれば、あるいはハラル認証さえ取得すれば必ずビジネスが成功するというわけではありません。また、ハラル対応をより迅速に進めるには、これまで以上に大きなパワーが必要です。

ハラルは、全世界で通用する安全・安心の証です。海外を視野に入れたビジネスをするためには「ハラル」ビジネスの理解が欠かせません。

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情報提供:

株式会社ROI

    
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