「あなたもベストセラー作家に!」という甘い言葉に罠がある自費出版の手口とは

以前、「自分の本を出版したい!」という欲求にかられた人々の金を取り込んで倒産した『S』という自費出版会社があった。
自己顕示欲が強い人間の箸の棒にもかからない自己満足の本を出版したいという欲求を少なからず持っている。

そんな欲望の鍵を開け、ひっそりと体を忍び込ませるのが、出版ブローカーの手口である。
自社で設けた文学賞やフォト大賞、エッセイ大賞の落選者に、“共同出版”というカタチを実質売りつけるのが、彼らのやり方である。
お値段は、約100万から200万円の間。
「編集本部も、非常に乗り気になっておりまして……」というヨイショを付け加え、
明日のベストセラー作家を夢見る若者やなけなしの年金生活者を食い物にする。

『S』の見受けをした自費出版会社に未だ勤務するJ氏(38歳)は、この道17年のプロだ。
「あのね、余計な揉め事を起こしたくないんなら、宗教関係者かマルチ商法をやっている人間に出版を持ちかけるの。そうすれば、必ず一定の数は捌けるでしょ? それでいいの。訳の分からない素人風情の本なんて、拙い文章だし、売れるわけないんだから、リスクが大きくなるの」
この17年間、彼は自費出版業界で何を見つめてきたのだろうか?


「天才だ! ぜひ当社と組みましょう」で店頭には並ばない

狙う標的はすぐに見つかる。彼らが広告代わりの小説賞告知を載せていたのは、月刊誌『公募ガイド』。
ここには、夢見るフリーターや作家志望の教師、絵本を書きたいというママさんなど、多くのカモがいるというのだ。

「まずは、適当に文学賞の広告を載せます。ここには、千数通を超える作品が届くので、名簿が作れるわけです。その名簿に営業マンが一斉に電話をかけていきます。“素晴らしい出来でしたが、残念ながら選考からは外れました”や“あともうちょっとイジれば、もっとよくなるんですが”など、出版営業をかける後日までの掴みをしておくわけです。それからは“やはり天才でした! ウチで出版してみませんか?”と声をかけますね」
ここまででも非常にボロイ商売ではある。しかし、このタケノコ剥ぎのような支払い無間地獄は、終わることはない。

「とりあえず、100万円で本を製本しました。でも、手直しとデザインは別料金。さらには、出版したあとの陳列棚の配置料金まで取っていきます。それでおおよそ150万円。その上、在庫を抱える手数料や適当な文化人にコメントを書かせるオビ制作料、諸々合わせて200万円には持っていくわけです」
ということは、100万円で刊行したとしても、それ以上の金を支払わなければ書店の棚に置くこともできないということなのか。
ここまでのぼったくりビジネスも聞いたことがない。

なぜここで成長したのか?それは彼の存在

「『B』社なんかの存在が大きかったですね。どうしょうもない文章力とストーリーだった、今ではベストセラー作家の山田悠介をデビューさせた。これが、自費出版バブルに拍車をかけました」
『リアル鬼ごっこ』シリーズで一躍ライトホラーノベル界の寵児になった山田悠介。その効果は絶大だった。

毎日山のように10代後半から50代の小説原稿が届く。文章修業をしたことのない彼らの原稿。ブログやケータイ小説のおかげで自意識過剰の輩が増え、まともな文章ひとつ書くことができないのに、自分の名が世の中に残る一冊を出したがる、とJ氏は言った。だが、J氏が所属する『S』社は、片っ端から営業をかけてゆく。

「でもね、年寄りは戦争体験ばかり語りたがる自分史、若い連中は企画意図がわからない詩集やブログのようなエッセイばっかりで、“これ、いいですね!”というセールストークにも満たないものばっかりだった。あるジジイなんか“人を何人殺した”という懺悔本、あるばあさんは自分の性の遍歴を生々しい描写で書いている日記みたいなのを送ってきてましたよ。そんなもの本にできるわきゃないっちゅうの」

仕掛ける方にも苦労はあるということなのか。出したい人々の気持ちはわかる、インチキをしているのはJ氏側なのだから。

「まぁここだけの話、ウチから出してる宗教やらマルチのお客さんも恐いときは実は恐いんだけどね」
新興宗教やマルチ商法が一番のお得意先だと話していたJ氏だが、舌の根も乾かないうちに話を覆しはじめた。
金を稼ぐことを目的としたマルチ商法ならまだしも、独自性の高い信仰心や出版の文言選びの誤解から必要以上に敵視されたりと一筋縄ではいかないそうだ。

「いつぞやなんて、僕をつけてきている信者がいたんですよ。後日に階級上の信者に話を聞いてみたら、“あの男は公安に頼まれてこちらをマークしている”“だから、誤字脱字などの凡ミスを何度も犯すんだ”って言ってたらしい、さすがに怖くなりましたね。日本の戦後史を揺るがせたあの事件もあるぐらいなんだから、疑心暗鬼で殺されでもしたらたまったもんじゃないですよ」

このような業者が多いという、この自費出版業界。あなたも「あなたの人生は素晴らしい」「あなたの発想力はスゴイ」などと自尊心をあおられるようなことを言われても、そんなに簡単には100万部を超える作品が生まれることなんて、なかなかありません。
気をつけてほしいと15年選手のライターとして思います。

(丸野裕行)

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