なぜ航空券には格安チケットがあるのか? 会計の知識から航空業界のビジネスモデルを考えよう

航空券の値段はまちまちで、正規料金の半額程度の場合も少なくありません。また、大阪空港から東京ディズニーリゾートに1泊宿泊と往復航空券、それにディズニーの1日パスポート券まで付いて、往復航空券より料金の安い格安ツアーも出ています。ディズニーに行かずに、航空券だけを使っても、正規料金よりもずっとお得になります。なぜ、航空券には格安チケットがあるのでしょうか。会計の知識から航空業界のビジネスモデルを考えてみましょう。


固定費の高い航空業界

鉄鋼業などの装置産業では固定費が高く、その分変動費は低くなっています。卸売業などは逆で、固定費はそれほど多くかからないけれども、変動比率が高い事業です。

航空業界は、固定費型の産業です。ジャンボジェット一機でも約200億円という巨額の費用がかかります。JALやANAといった会社全体では、固定費型の産業ですが、一機ごとでも固定費と変動費の考え方が大切です。

会社全体で見た場合には、東京~福岡間路線でジェット機を飛ばすときは、燃料費などは一機増えるごとに変動費として計算されます。飛ばさなければそれだけの費用はかからないからです。

しかし、一機単位で見た場合には、定員以内であれば乗客が何人でも費用は変わりません。ですから、会社全体で見た場合には変動費でも、一旦飛ばすと決めたら、それは、固定費ということになります。

つまり、一機単位で見た場合、燃料代などは固定費となります。乗員の給与も固定費です。何人乗客が乗っても、必要乗員数は基本的には、変わりません。

乗客が増えることによる変動費もありますが、国内線だと飲み物代と毛布やヘッドホンの清掃代くらいです。

損益分岐点にまず到達させる

まず、航空会社として大切なことは、損益分岐点までの乗客を確保することです。それ以下で飛ぶと、赤字となるからです。損益分岐点までの乗客数を確保するために、3つの方法が考えられます。

1つ目は、普通運賃でその売上高を確保すること。
2つ目は、人数は増えるが、割引料金でその損益分岐点売上高を確保するやり方。
3つ目は、その両方で、正規運賃の乗客と割引運賃の乗客の双方で損益分岐点売上高を確保します。

現在の日本の航空会社では3つ目の方法が採られていますが、損益分岐点に到達するまでは、割引運賃に主眼を置いています。

格安チケットがキャンセルできない理由

まず、JAL、ANAともに、早く買えば買うほど安い運賃を提示しています。しかし、このチケットには制約があります。航空券のキャンセルや便の変更ができないのです。

この理由は、顧客サービス上の理由です。正規運賃のチケットは変更可能で、割引運賃を支払った乗客との差別化を図ることが必要です。これ以外のサービスの違いはありません。格安チケットで乗ったからといって、日本では飲み物の種類が制約されたり、飲みものの量が減らされたりということはありません。違うのは変更可能かどうかということだけです。

これには、変更不可能のチケットを販売することにより、コップにある一定量まで水を貯めていくのと同じように、他社や他の便に変更できない乗客を確保して、損益分岐点にまで達するようにするという目的があります。

安いほうが乗客は集まりやすいですから、早期購入や、団体客である一定数の乗客を確保し、それにプラスして、それよりは値引率の小さいチケットを、また決まった数まで発券します。そして、搭乗期日が近づくと、正規料金かそれに近いチケットを多く売るというやり方を行なっています。期日が近づくと、どうしても乗りたい乗客は、少々高くとも買うからです。このやり方だと、損益分岐点を超えたところあたりからは、一人当たりの客単価が増えるために、利益率が格段に上がる構造になります。

「安い航空券が出るのは、空気を運ぶよりそのほうが航空会社にとって得だから」という声を時々聞きます。確かに、固定費、変動費という発想からは、この考え方は間違っていませんが、この考え方だと、後で売るほうが安くするということになります。売上げの時間軸と損益分岐点を早く確保するということを考えた場合には、もう少し複雑な考えがあるのです。

「クラスJ」は「増し分」

搭乗口近くで待っていると、JALの場合だとしばしば「クラスJ」の空席の案内をしています。クラスJというのは、千円上乗せすれば、普通席より少し広めのシートが提供されるというものです。東京~大阪便だと、クラスJの空席待ちをしている人も多く、たいてい満席ですが、地方便だとそうでもないときもあります。そうしたときには、「クラスJに空席があります」というアナウンスが流されます。客単価がその分上がるからです。

これは、「増し分」で、商売上、いちばんおいしい部分です。固定費は変わらず、変動費もほとんど変わらないところで、売上げだけが上がるという部分だからです。商売のうまい人は、この増し分のおいしさを知っています。

JR新幹線も同じ理屈なのになぜ割り引かないのか?

会計的には、新幹線に格安チケットがあっても不思議ではありません。鉄道業も固定費型産業で、また、一編成ののぞみ号などを動かす費用は、航空機と同じで、乗客が定員内で乗る限りはほとんど変動費がかからないのです。鉄道の変動費の代表である電気代は一編成で見た場合には固定費です。

それにもかかわらず、新幹線に航空券のような「早割」「特割」といった大幅なディスカウントチケットがないのはなぜでしょうか?  その最大の原因は「競争」にあります。JALやANAは2社しかありませんが、競争しています。

しかし、JRには直接的なライバルがいません。もちろん、いくつかの路線では航空機と競争しています。東京~大阪は特にそうです。しかし、それでも直接のライバルがいないところがほとんどです。特に東京~名古屋には定期航空路線はありません。だから、JRはわざわざ値引きしなくとも、「独占」のメリットを活かして、料金を維持することが可能なのです。

競争が十分でない状況では、なかなか適正な価格の決定や経営が出来ない場合もあることは認識しておくことが必要です。

航空機のシートが新幹線よりも狭いのも競争のせい

飛行機のエコノミー席のシートが狭いのに不満を持たれている方も多いと思います。少し身体の大きい人ならひざがつかえたりして、身動きも不自由です。それに比べて新幹線の前席とのシートはもう少しゆったりとしています。もちろん、飛行機でもスーパーシートやビジネスクラスはかなりゆったりとしていますが、その分料金も高く設定されています。

この差も競争の差と考えることができます。JRにも競争がありますが、航空機業界がさらされている競争とは比べ物になりません。競争が無く、許認可の状況では、「コスト+α」で料金が決まります。さら、コスト設定も、「何席ひと車両に設置するか」も、ある程度JRの裁量の範囲内です。

一方、競争の激しい業界では、価格競争も熾烈になります。そうしたときに、効率を高くするためには、一機あたりに乗せる乗客数も出来るだけ多くするということになります。それが、シートに現れているのです。

一般的には顧客は、「品質、価格、サービス」の3つを比較してどの会社のどの商品を選ぶかを決めると言われています。競争の激しい業界では、どうしても品質やサービスはより高く、価格はより低くなりがちです。そうした場合には、コスト競争力が重要となります。コストを下げなければ、品質、サービスを同一料金でより高くしたり、従来と同じ品質とサービスをさらに安い料金で提供しないといけないからです。

そうした状況下、まだまだ高コスト体質から抜けられない日本の航空会社にとっては、今後さらなる試練の時が来るかもしれません。

会計の知識から、なぜ航空券には格安チケットがあるのか理解出来ました。会計の知識があると、ビジネスモデルの分析にも役に立ちます。

次の記事

「常滑のコストコが大人気!? 会員制のビジネスモデル「コストコ」が成功した5つの理由」

前の記事

「クックパッドのビジネスモデルで大切なのは有料会員」

参考本

「「1秒!」で財務諸表を読む方法(小宮 一慶)」

    
コメント