なぜ不況の中でもタクシー台数は増えるのか? タクシー会社の損益計算書を直接原価計算で考える。

なぜ、タクシー運転手の悲鳴が聞こえる中、タクシー台数は増えるのでしょうか。タクシー会社の損益計算書を直接原価計算で考えると、この謎の答えが見えてきます。


■バブル期のタクシー全盛期

バブル経済絶好調の頃は、六本木などの繁華街では、深夜にタクシーをなかなかひろうことができないことがありました。深夜に1時間くらいは待たされることもあり、そのために、夜だけ走る「ブルーライン」というタクシーもあったほどです。バブル当時、タクシーは規制で守られていた業種で、台数制限があったからです。

■バブル崩壊と規制緩和

バブル経済崩壊でタクシー需要が減退する中、規制緩和で台数の制限がなくなり、今では東京や大阪などの都心にいれば、いつでも、それほどの苦労なくタクシーをひろうことができるようになりました。

その反面、タクシー会社の競争は年々激しくなり、大阪では「5千円超半額」を掲げたタクシーが、ひしめき合って客待ちをしているほどです。タクシー運転手さんの待遇も競争激化にともない下がり続け、月収20万円を稼ぐのもなかなか難しいという状況です。

それでは、そのような状況で、なぜ、それでもタクシー台数は増え続けるのでしょうか。

■タクシー会社の損益計算書

そのような状況でもタクシー会社は儲かります。タクシー会社の損益計算書を、直接原価計算で考えてみましょう。

■運転手の人件費は変動費!?

まず、売上高は各タクシーの売上げを合計したものです。そして、変動費は、運転手さんの人件費、燃料代などです。タクシーの運転手さんは、たいてい売上げの5から6割が収入となります。ですから会社にとっては変動費です。

■タクシー台数が多いほど全体の固定費負担は減る

固定費は、車の償却費、配車係や経営者の給料、会社の事務所の維持費などが固定費となります。売上高に関わりなく発生する費用です。 台数が多ければ多いほど、1台あたりの固定費負担は減ります。

タクシーの売上げから変動費を引いたのが「貢献利益(限界利益)」です。この貢献利益が会社全体として多ければ多いほど、固定費をカバーし、利益を出すことができます。貢献利益は、「1台あたりの平均貢献利益×台数」で計算されます。

■台数が多いと1台あたりの売上げは下がるが利益がはがる

ここでは1台あたりの平均貢献利益が増加するか、台数が増えれば、タクシー会社としては、全体の貢献利益は増えますから、自社の利益を増加させることができます。規制緩和により、タクシー台数増加には制限がなくなりました。タクシー会社としては、1台あたりの貢献利益が、全社合計で固定費をカバーできないほどよほど少なくならない限りは、台数を増やせば増やすほど利益が上がるという構造になります。

しかし、競争下で、料金が変わらず台数が増えれば、「需要と供給」の関係で、1台あたりの売上げは下がります。それでも、トータルでの貢献利益が固定費をカバーする限りでは、会社から見れば台数を増やすというインセンティブが生まれます。

むしろ、1台あたりの貢献利益が減れば、台数をさらに増やして、トータルの貢献利益を増やし固定費をカバーするというインセンティブが働きやすくなり、台数増加が余計に起こるということになります。現在のような人手不足の状況では、運転手を多く集められる大手は、余計に収益が上がり、台数の少ない中小業者では、規制緩和で1台あたりの売上げ、貢献利益は減っていますから、収益は厳しく、大手との差が余計に開くという構図になっています。

結果として、東京では、大手がますます大きくなり、その下に中小がフランチャイズなどとして加盟するケースが増えています。

しかし、会社から見れば変動費として扱われる運転手さんの給与ですが、運転手さんとしては、台数増加により収入が減少しているということになります。

「固定費」「変動費」、そして直接原価計算の「貢献利益」という概念を使うと、現状のタクシー業界を理解しやすくなります。

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