おひとりさまの老後をエンジョイするための条件は「自分だけの住まい」を持つこと

家族も仕事も卒業して、おひとりさまの老後として「自分のためだけ」に使えるありあまる時間をエンジョイするために、最低限必要な条件は、「自分だけの住まい」をもつことです。


みんな自分の家に帰りたい

入院中の病人も、施設に入っているお年寄りも、「自分の家に帰りたい」と訴えます。設備の整った場所に、患者や高齢者を一カ所に集めてめんどうをみるのは、看護や介護をするひとのつごうで、本人のつごうではないからです。医療機関なら、治療という目的があるから、しばらくはがまんできます。いつかは家に帰れるという期待がもてるからです。

施設に入ったら二度と出られない?

ですが、多くの高齢者にとって、施設は入ったら二度と出られない場所です。「家に帰りたい」という高齢者のシンプルかつ切実なのぞみがかなえられないのは、なぜでしょうか。だれだって病院や施設のような空間よりは、どんなに汚くても、どんなに不便でも、住みなれた自分の家のほうがずっとよいに決まっています。

介護が必要なら、24時間、在宅支援があればすみます。ヘルパーさんや看護師さんがべったりはりついている必要はありません。日中3回、夜間1回の巡回介護があれば、在宅でやっていける程度のお年寄りはいくらでもいます。

お年寄りが家に帰れない理由

家があるのに家に帰れないお年寄りがいる答えはかんたんです。帰るはずの家に、家族がいるからです。家族は、お年寄りが家に帰ってくるのを拒みます。そもそもお年寄りを施設に入れることを決めたのも家族です。同居を拒否しているのは、家族のほうです。

とはいっても、家族を責められません。24時間同居では介護から逃げられません。自分の健康と生活が破壊されると思えばこそ、涙をのんで選択したのでしょう。

「家で暮らしたい」と「家族と暮らしたい」はちがう

これがひとり暮らしなら? と考えてみましょう。「家に帰りたい」というその家が、「ひとり暮らしの自分の家」であれば、お年寄りが家に帰ることを妨げるものはなにもありません。在宅支援の地域介護体制が整っていれば、要介護のお年寄りにだってひとり暮らしはじゅうぶん可能です。

お年寄りの「家に帰りたい」というのぞみは、たんに「自分の家というスペースに帰りたい」という意味ではないでしょうか。日本語の「家」ということばは、誤解をまねきやすいのです。「家に帰りたい」という希望と、「家族といっしょに暮らしたい」という希望をとりちがえるから、ややこしくなるのです。

ひとり暮らしをしていたひとでも、施設に入居したら、やっぱり「家に帰りたい」というひとがいます。その場合は純粋に建物としての家で、人間関係としての家ではありません。もし、その家に家族が住んでなかったら? それなら堂々と大手をふって家に帰ることができます。家族がいるばっかりに、自分の家から出ていかなければならないのが、高齢者のほうになるのです。

家族が同居したくないのなら?

こういうときには、逆転の発想をしてはどうでしょうか。高齢者は「家に帰りたい」が、家族は「同居したくない」と利害が対立したら、高齢者を「家に帰さない」という選択をする代わりに、家族のほうが「家を出ていく」という選択をすればよいでしょう。若い世代のほうが、環境の変化に対する適応も柔軟です。古い家は年寄りにあけわたし、近くにマンションでも借りて、親の家へときどき通うのです。

パートタイム家族という考え方

同居がイヤなら、しょっちゅう親の顔を見なくてすむ距離を保てばよいのです。つまりパートタイム家族やサムタイム(ときどき)家族をすればよいのです。もちろん仕事や出かける先があればフルタイム家族をやらずにすみますが、帰ってほっとくつろぐ自宅に要介護の高齢者がいる負担感は大きいものです。

おひとりさまの老後の最低限のインフラ

おひとりさまには、こういう苦労はありません。自分の家は自分ひとりの家です。帰るのに、だれに遠慮もいりません。シングルであることと、シングル世帯であることとは違います。自分の住んでいるすべての空間をひとり占めできるのが、「おひとりさまの老後」の最低限のインフラ(生活基盤)なのです。

だれでも「最後まで自宅で過ごしたい」がホンネ

先進ケアで知られるさまざまな高齢者施設の管理者や責任者に「あなた自身が要介護になったとき、どこに住みたいと思いますか?」という質問をしたらどんな答えが返ってくるのでしょうか?

「自分の施設で」という答えではありません。「ぎりぎりまで自宅で過ごしたいです」というのが彼らの答えです。どんなに評判のよい施設でも、自分の意思ですすんで入居したひとは、ほとんどいません。もし自宅で介護を受けることが可能なら、そちらを選びたいというのが、先進ケアを実践するひとたちの偽らざる気持ちなのです。

おひとりさまの老後をエンジョイするための条件は「自分だけの住まい」を持つことがポイントです。

参考本

「おひとりさまの老後(上野千鶴子)」

    
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