「すし外交」と優雅に構えてもいられない日米中関係

2014年4月23日から24日までの日米首脳会談の訪日外交を終え、バラク・オバマ米大統領が日本を発ちました。安倍晋三首相は日米同盟を「平和と繁栄の礎」と位置付け、オバマ氏の「アジア重視のリバランス(再均衡)政策」を歓迎。

オバマ氏も対中国を睨み「沖縄県の尖閣諸島が日米安全保障条約第5条に基づく防衛義務の対象だ」と応じました。さらに核実験を繰り返し、ここ数ヶ月で特にミサイル乱射を連発する北朝鮮に対しても、オバマ氏は今回のアジア歴訪で米日韓の三ヶ国の協力を取り付ける意向を示しています。

日本にとっては中国の防空識別圏(ADIZ)問題を含む領土問題と、韓国のアジアに留まらないロビー活動が盛んな従軍慰安婦問題や歴史認識問題に悩まされてきた最中のこと。

迫りくる中韓包囲網の前に現れたオバマ氏は唯一の頼みの綱です。ここは是が非にも米国に忠信を表したい安倍氏は23日の夕食に銀座の一流寿司店でオバマ氏を国賓として持て成しました。また24日には皇居で天皇皇后両陛下との懇談も終えたオバマ氏の目に日本は如何様に映ったのでしょうか。

大手メディアの大見出しには「すし外交」という文字が踊っています。しかしオバマ氏にとって今回の日米外交で最も強調したのは意外にも安全保障問題ではありませんでした。

また、一度も日中首脳会談を開こうともしない中国の習近平国家主席の動向も不気味なものがあります。ここでは今一度日米中関係について考えてみましょう。


なぜオバマ氏TPPに強硬姿勢?背景に「貿易促進」権限ちらつかせる米議会の内情

今回の日米首脳会談でオバマ氏が日本の対中国、対北朝鮮を睨んだ安全保障問題よりも何より重視したのは、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉でした。オバマ氏にとってはオバマケアの失政や膨らむ国債などの経済問題で低迷する支持率を今年11月初頭に予定されている米中間選挙で巻き返しを図りたい狙いがあります。

今回のアジア歴訪は外交政策の中でも世界経済の生産高の40%を勘定できる11ヶ国のアジア環太平洋諸国に向けて、自由貿易合意を取り付けることにオバマ氏は強い意義を感じているようです。TPP交渉の可否がオバマ氏の掲げるアジア回帰のリバランス政策の成否を分つと米側は考えているようにも見えます。オバマ氏としてはTPP交渉を中国とインドにも取り付けねばならないと考えているというのが米外交筋の大方の見方だと言います。

日本の甘利明TPP担当相とフロマン米通商代表部代表の熟達した指導力を持ってしても、12のTPP交渉国家との合意に達するか否かという政治的ハードルは高く、その交渉にはリスクが伴います。

「ロイター通信」(2014年4月22日)によれば、米上院議会の民主党のトップである院内総務ハリー・リード氏は、TPPパートナーだと明らかにするのに通常の交渉を行なうため不可欠な「貿易促進」権限を大統領に与える票さえも投じないと圧力をかけていることが明らかにされています。

フロマン氏はこうしたTPPの交渉の先陣を切って指揮してきたため、リード氏がオバマ氏にちらつかせる「貿易促進」権限が合意に敏感な地域に決着をつけるのに決定的なものであると証言できると断言しているのです。

こうした国政からの突き上げが米議会や米市民へオバマ米大統領にTPPなるものが本当に経済的利潤を生むのかという十分な説明が求められることを迫られています。そのことが海を越えた環太平洋諸国により深い協力関係を結ぶことに対し、語気を強めてしまうというオバマ氏の内情が背景にあったのです。

習近平氏という山は動かずとも 対日政策に変化の兆し

第二次安倍政権になり、中国が習近平体制に刷新されてから、日中首脳会談はまだ一度も実現していません。ご承知のように理由は東シナ海の「尖閣諸島」問題に起因しています。昨年から米国が「アジアへの回帰」で「関与」と「ヘッジ」政策を取って介入しているため、中国は二国間外交から協調外交へと妥協しなくてはならなくなりました。

しかし中国は今年、国防費を8082億3000万元(約13兆4460億円)と前年度比12.2%増額しています。これに対し、日本は国防費を昨年から2年連続で増額し、2014年度は前年度比2.8%増の4兆8848億円に引き上げました。このことで中国は共闘する韓国とともに「日本の軍事大国化の再来」だと自国のことは棚に上げて非難を繰り返しています。

しかし、日本はもっとそれまでの15年間の国防費削減という明確な数字を示した論拠で武力行使ではなく、言論による闘論で外交的解決を中国に迫るべきではないでしょうか。習氏は平和ボケした日本に対してではなく、その後ろ盾となっている米国への次の布石として「新大国間関係」という米国のメンツを立てた大国同士だとする二国間外交を打ち出しました。

この習氏の策に対し、2013年11月20日にワシントンで行われた講演会で、コンドリーザ・ライス米大統領補佐官が米中両国の「新大国関係を受け入れる」と発言しました。その数日後の11月23日に習氏は尖閣諸島を含む東シナ海の上空に防空識別圏(ADIZ)を設定したとする見方があります。

しかし、日中相互理解を促すパブリックディプロマシー(公共外交)を掲げる趙啓正 新聞人民大学新聞学院院長(*注)は民間外交レベルで「中国は領空侵犯をしていない。ただ対馬の上空を通っただけで、防空識別圏(ADIZ)は米国が最初に設定したものであり、その後に中国も設定し、韓国もADIZを拡大させたのだ。」と反論しています。

海外の一部メディアを含む、主に一般週刊誌などの日本メディアは、ここ最近「第三次日中戦争が始まる」と100%起こるとは決まっていない日中情勢を断定的に戦争勃発すると煽り立てていました。

しかし「レコード・チャイナ」(2014年4月19日)は元中国共産党書記の胡耀邦氏の長男、胡徳平氏が4月8日に安倍首相と会談していたと冷静に報じていました。さらに中国副首相の汪洋氏は4月15日に北京で河野洋平氏と会談した模様で、河野氏率いる日本国際貿易促進協会訪中団と面会し、日中間の経済協力について意見交換を行ったとも伝えています。

胡徳平氏は習近平国家主席と直接対話ができるため、日本政府にVIP待遇で迎えられたとされています。4月6日から8日間滞在した胡氏は福田康夫元首相、鳩山由紀夫元首相、岸田文雄外相、菅義偉官房長官と相次いで会談したとのことです。

習近平国家主席や李克強という中国首脳ツートップの山は動かず、代行を寄越した本件について、香港紙・明報は「胡徳平氏は単なる共産党員の肩書きしかないが、『準特使』の身分で訪日した。日本に対するこれまでの中国政府の冷淡な態度に比べると、大きな変化だ」と指摘しました。

その理由に「中国経済は先行き不安であり、日中貿易額が2年連続で減少。日本の最大輸出国は中国から米国に交代した。政治関係の悪化から両国の国民が互いを敵視していては経済貿易に影響が出るためだ」と分析しています。

2013年10月に行なわれた「第9回東京—北京フォーラム」で言論NPO代表の工藤泰志氏を中心として「不戦の誓い」が立てられてから約7ヶ月が経過しました。昨年の東シナ海の海域はまさに日中両国の自制心だけで持っているという現場レベルの必死の言論外交があったと言います。

「このままでは衝突が起きる」と本気で話す自衛隊関係者もおり、中国人民解放軍将官間で曳光弾やADIZの問題も「現場レベルで、海よりも空が一番危ない。」とある中国側発言者が警鐘を鳴らしたそうです。「艦船が入ることは、そんなに大きな危険性を伴いません。しかし、飛行機が入ってしまうと危ない。双方が共に飛行機を出さないことが大事です。」と、この非公式会談に参加した中国側と日本側の間で互いに戦争を未然に防ぎたいという思いから意思疎通を図り、危機管理を実現するためのホットラインを作らなければならないと真剣に議論していたと言います。

「戦争が勃発する」と煽り立てるメディアの報道が生み出す世論を変える必要があるのです。本来、大手メディアは史実を検証し、誰よりも冷静かつ客観的に火の立ち上った原因である着火点を鎮火するのが役割なのではないでしょうか。

ウクライナ危機で優勢に立つ中国

今、オバマ米大統領は中韓と係争し、乱発される北朝鮮のミサイルの脅威に立たされる日本の有事など、実はさしたる問題ではないのではないでしょうか。

というのも、2013年末から勃発したウクライナ危機が長期化しているからです。クリミア自治共和国のロシア編入、ウクライナ国内における親ロシア派による東部ドネツク人民共和国の樹立と住民投票を巡る米欧露の覇権争いが目下、オバマ氏の悩みの種だと言っても過言ではないからです。「CBSイブニングニュース」(2014年4月21日)によれば、オバマ氏はバイデン米副大統領をウクライナ首都のキエフに派遣してトゥルチノフ現政権を欧州とNATOと共に支援していく方向で動いています。

ウクライナ危機の方がオバマ氏にとってみればよほどの有事であり、今回の日韓を含むアジア歴訪で牽制する中国の動向こそが、そのウクライナ危機でも鍵を握っているとみられるからです。

中国の習近平国家主席にとってみれば、ロシアに編入されたクリミアの事例は地中海と同じくらい中央ヨーロッパと東ヨーロッパは非常に重要な地政学上の意味合いを持っているという見方がなされています。中国専門家のアンドリュー・レオン氏は「ウクライナ情勢が悪化することによって、ロシアは米国とのバランスを中国との関係で図ろうとし、米国はロシアとのバランスを中国との関係で図ろうとするため、中国はいずれの場合においても非常に有利な地位を固めることができる。

さらには、近年米国がロシアに経済制裁を課す中、背後ではロシアは既に中国と2018年までに3倍の量の資源取引を行う合意書に署名しているのだ。」と指摘しています。また「ロシアは経済制裁が課されていても利用可能な中国銀聯の人民元を使いがちになる。中国にとっては、人民元が国際通貨になるまたとない好機であるということだ。」とレオン氏は見ています。

以前から「人民元がドルに取って代わる」という見方は国債が膨らみ続けて米国のドルの勢いがなくなっていくという背景から何度か流布されたことのある仮説です。それが今また若手中国研究者の議論の俎上に挙げられている様です。しかし、一方ではシャドーバンキング問題などで中国バブル崩壊も目前との報道が大筋の中、レオン氏に対する異論も紛糾するでしょう。

その当事国の中国に不気味な動きが見られました。日本が北朝鮮のミサイル連射の対応に追われ、中国政府が主張するADIZ問題と韓国の従軍慰安婦問題に頭を悩ませていた時、中国の習氏は何を隠そう中欧外遊に興じていたのです。

「チャイナ・デイリー」(2014年4月4日)によれば、2014年3月22日から31日まで欧州に滞在した習氏は、ブリュッセルで欧州委員会理事などと会談し、中国欧州投資合意書を取り交わすべく、経済協力貿易パートナーとしての中欧関係を盛んにアピールしていたと報じています。

また1975年に始まった中欧外交関係樹立以来、欧州—アジア関係研究のシンクタンクEIASに習氏は中国国家主席として初めて訪れました。その席で講演した習氏は欧州外遊の経済外交の確かな手応えを感じたと強調しています。

さらに今回の中欧外遊は原発や航空、宇宙工学、自動車、その他の伝統的な分野だけではなく、欧州の主要な研究にも参画し、知的製造業の開発やインターネットを使った新世代の情報技術や成長途上にある分野でも、中欧協力関係を拡大させることを目的としたものでもありました。

欧州側もオランダやドイツ、フランス、ベルギーなど欧州債務危機に陥った時でさえ、中国人の学問や政治的思考、科学、技術において学ぶものが多いとしてきた考えは今なお変わっていなかったというのです。このように中国はロシアだけではなく、欧州にまで触手を伸ばし始め、着実に覇権勢力を拡大していこうと画策しているようです。

いかがでしたか?今回の日米首脳会談で返って中国が存在感を増しているという実情が浮き彫りになりましたが、日中の外交手腕は豪州間でも勝敗がついてしまったようです。日本が米国との環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に難航する中、これに先駆けて日本政府は豪州とも経済連携協定(EPA)交渉を今年4月7日に大筋合意していたのです。

安倍氏は豪州のアボット首相を国家安全保障会議(NSC)の特別会議に外国首脳として初めて招待して「信頼の絆」を強調していました。ところが、それから数日後の4月12日にそのアボット豪首相は訪中し、習近平氏に「豪中戦略的パートナーシップの強化こそが、訪問の目的だ。中国訪問は今回のアジア外遊の重点で、一番大事な場面でもある」とガッチリ握手を交わしていたのです。日本は何もかもが後手後手外交と言われてもやむかたないのではないでしょうか。

2013年2月9日にチャンネル桜に出演した元月刊「中国」編集長の鳴霞氏によれば、習近平氏は1985年中国福建省書記になった際、17年間少なくとも4回は沖縄—中国間を往来し、中国政府は2億円以上も投資して沖縄を研究し尽くしてきたそうです。中国の日本に対する侵略は約20数年前から始まっており、「習近平現中国国家主席は必ず沖縄(尖閣諸島)を取るだろう」とその執念を語っていました。

世界で最も権力抗争の激しい中国共産党内で、目下胡錦濤前国家主席という後ろ盾を持っていた李克強という有力者を抑えて現国家主席の座についた、頭のキレる、執念深い習近平氏を動かさなければならない。日本の公式な外交のみならず、民間外交、公共外交、民際外交、あらゆるチャネルでしかと連携し、愛国心を蘇らせてこの難儀を乗り越えなければならないのではないでしょうか。

(*注)言論NPO「新しい民間外交の可能性」シンポジウム2014年3月29日登壇者発言より

「言論外交―誰が東アジアの危機を解決するのか(工藤泰志)」の詳細を調べる」

    
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