社会を自分で考えるには

反知性主義という言葉が使われ始めて久しいです。これはどのようなものなのか。アメリカのトランプ大統領や、日本国内で大阪府長、市長を歴任した橋下徹のような政治家が、市民の支持によるポピュリズムで誕生し反知性主義を象徴するとも言われていますが、果たして本当にそうなのでしょうか。


日本はどこへ向かうのか?

與那覇潤による『知性は死なない:平成の鬱をこえて』(文藝春秋)は変わった作りの本です。著者は気鋭の歴史学者として論壇でも注目されていましたが、重い躁うつ病を発症し、言葉を記すことさえ困難な状況へ陥りました。現在は大学の教員をやめて在野の研究者として活躍しています。そのような著者が、平成という時代や、大学という空間、さらに反知性主義がはびこる現代において知識、知性がどのような価値を持ちうるのかを記した本です。文体としてはエッセイの形をとっていますが、戦後の冷戦体制の確立と崩壊、イスラーム主義の台頭といったトピックについて解説しています。そのため、現代史に興味がある人におすすめです。

精神疾患とは何だったのか

もうひとつは著者自身が罹患した躁うつ病について、著者の見解が記されています。精神病に関しては「気の持ちよう」「精神病になりやすい性格がある」といった俗説が溢れていますが、それらについて既存の書籍や論文などを整理しながら著者なりに整理を行っていきます。これは論文執筆における先行研究の調査とも重なりますので、歴史学者を本業とする著者でも、そういった作業は得意なのだろうと思わせます。最終的にはネット上に溢れる自分でできる認知療法といった情報には懐疑的な姿勢を示している点も興味深いです。

社会が病んでいる?

社会が病んでいる、この国はどこへ向かうのか、といった問題提起は、現代社会の評論ではよく行われがちなものです。しかし、著者は本当に自分自身が病んでしまいました。その立場から現代社会をどのようにとらえているのか。これまでにない視点が存在する本であるのは確かでしょう。

    
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