東京都知事選にみる 細川候補・小泉氏タッグと宇都宮候補 あえて問い直す「脱原発と東京五輪」争点の意

 2014年2月9日に投開票が行われる東京都知事選挙。1月13日の東京新聞の都民調査によれば、「選挙に行く」と回答した都民は93%にも上り、この都知事選への関心の高さが伺えます。また、1月25日に毎日新聞が行った世論調査によれば、有権者の都知事選の最大の争点は1位が「少子高齢化や福祉」で26.8%、次点で「景気と雇用」が23%だったことに対し、「原発・エネルギー問題」は18.5%。「東京五輪の準備」が7.7%という結果でした。主要4候補のうち、自民・公明両党が推す舛添要一候補が他候補に先行しているといった選挙情勢。ここでは後を追う、細川護煕候補と支持者である小泉純一郎元首相のタッグと宇都宮健児候補が街頭演説で訴える「脱原発と東京五輪」についてあえて取り上げます。3.11以降、今年で約3年目を迎える「脱原発」の市民運動の闘いの現状と、そんな閉塞した社会に市民が希望を見出した「東京五輪パラリンピック」開催決定の意義について問い直してみましょう。


「原発ゼロのカリスマ」小泉元首相の応援と霞む細川候補

東京都知事選に、細川護煕元首相が出馬表明したその時、脱原発の救世主として彗星のごとく登場した細川候補支持の小泉純一郎元首相。
 昨夏、脱原発のドイツと原発推進のフィンランドを視察した小泉氏は帰国して次のように語っています。
「いま、俺が現役に戻って、態度未定の国会議員を説得するとしてね、『原発は必要』という線でまとめる自信はない。今回いろいろ見て、『原発ゼロ』という方向なら説得できると思ったな。ますますその自信が深まったよ。」
 小泉元首相自身、3.11以前は原発推進政策を進めてきただけに、この言葉からくる今回の言動は首尾一貫性があるといえます。
 1月25日午後15:00。東京都立川市JR立川駅南口に、立体交差橋を人、人、人が埋め尽くす中、「変人」と言われた白髪のカリスマは東京都知事選候補の細川護煕元首相の応援演説に登場しました。
「細川さん。よくこの東京都知事選の候補に立ってくれた。もう、過去の人じゃないかと言われることもあるが、70を過ぎた老人でもできることはあるんじゃないか。過去に辞めた人でも、人間は人間だ。やらなければならないことがあると、人は若返るんです。この日本で、最も電力を使っている東京が原発ゼロでオリンピックがやれる、成功させるという姿を見せて世界の信頼を得る。現に今、原発ゼロで日本はやっているじゃないですか!」と小泉氏は聴衆に訴えかけました。「原発ゼロで東京五輪成功」という、かつてポピュリズムの大賛同を得た分かりやすい小泉節は今、なお健在です。
 一目その姿を生で見ようと集まった聴衆から口笛を吹く者、地鳴りのような興奮と歓声が道路に轟くごとく沸き起こります。
 小泉氏が都知事選候補の応援演説に、「原発ゼロで東京五輪成功」と分かりやすく明確な理想を打ち出すのは有権者に希望を与えます。 
 しかし、細川・小泉陣営はそれに対する具体的なアプローチを未だ打ち出していません。小泉氏は「自然再生エネルギーの有効活用は専門知識のある官僚からフィードバックを得て政治家が動けばいい」と従来の官僚主導政治論を展開しています。
 「脱原発」「反原発」派か、「原発推進」派なのか、左や右に関係なく「原発は要らない」と主張する人々が連鎖反応を起こしてきたことは、3.11から約3年目に突入する市民運動の動勢を見ていれば明らかです。
 3代を勤め上げた総理時代に原発推進派だった小泉氏が、今「原発ゼロ」と「過ちを改めざる、これを過ちという」と孔子の「論語」を引用して、安倍政権に真っ向から翻意を突きつけて議論を巻き起こしているからこそ、有権者の願いに標を示していると言えます。
 「原発ゼロの方が国民の負担が大きい。コストがかかると言われている。しかし私は調べました。そんなことはありません。原発を使用した方が廃棄物が増え、その処理の方によっぽどコストがかかるんです!」と小泉氏は熱弁を振るいました。
現に使用済み核燃料の最終処分場をどこに作るか、未だ決まっていない。こうしている今も、全国の原子力発電所がそれを大量に所持し、崩壊熱が続いている間中、冷却し続けなければならないだけで莫大なコストがかかります。
 青森県むつ市にあるのは中間貯蔵施設であって、最終処分場ではない。今ある使用済み核燃料を再利用できるから青森県は「資源」としてこれを受け入れています。つまり、原発をゼロにしたらただの「ゴミ」になり、青森県は受け入れなくなると見られているのです。
 当の細川護煕候補は「GEやシーメンスなどの原発会社が原発事業から撤退し、今やこぞって自然再生エネルギー事業に切り替えている。これからは水と太陽、風、地熱で世界の自然エネルギー大国を東京都から目指していく。」と即時原発ゼロを訴えましたが、筆者には一体どちらが候補者なのか、圧倒的なカリスマ性をもつ小泉氏の応援演説にその存在感は霞んでしまっているように見えました。

自然再生エネルギーの可能性 安倍政権はあくまでも原発のリプレイスメントを推進

こうした課題を抱えている現状の打開策として声高に叫ばれている「自然再生エネルギー」の現状とはいかなるものなのでしょうか。国よりも先駆けてポケットマネーでソフトバンク社長の孫正義氏が創設した、「自然エネルギー財団」の取り組みに改めて注目してみましょう。
 今年1月、同財団は国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が提唱する国際ネットワーク「コーリション・フォー・アクション」に参入を決めました。
 同事務局によると、自然エネルギーを否定する根拠のない「神話」が国内外で資源活用の誤解を招いているためだとしています。「環境面への影響を考慮すると、自然エネルギーは気候変動問題を解決できない」「コストが高い」「送電網への接続が難しい」などの諸説が流布されていると言います。これらを一蹴するため、今後組織的に論証や情報普及を行っていくとのことです。
 このような民間からの世界の環境保護団体との連携の試みや、従来から逸脱した左派右派の垣根を超えた「原発ゼロ」を求める市民運動の地道な努力によって、原発の稼働を止めても夏期に停電しなかったという報道の検証もあるにも拘わらず、安倍政権は「原子炉のリプレイスメント」なる新たな原発の増設をエネルギー政策に取り入れようと画策しているのです。
 Globe Japan(地球環境国際議員連盟)は英キャメロン政権のエネルギー・気候変動大臣エドワード・デイビー氏を2013年5月30日に日本の衆議院第一議員会館に招きました。会場で開催された講演内容は、電気市場改革と共に新規原子力発電所建設を目指す英国の低炭素社会実現に「原発の技術や自然再生エネルギーのエネルギーミックスは有効」という見解や原発全廃を決めたドイツに対しても「ドイツでは再生可能エネルギーに多額の投資をしており、課題が積算している」とのデイビー氏の考えもフィードバックとして得ているのです。
 BBCの科学編集委員デイヴィッド・シュックマン氏の「原子力発電所は英国にとって有益な取引だ」(2013年10月21日)によれば、フランス電力は英サマーセット州にヒンクリーC原発建設計画を進めようとしています。さらに組合と英政府は毎時メガワット92.50ポンドの「権利行使価格」に合意しました。もし、フランス電力グループとのもう一つの英サフォーク州サイズウェル原子力発電所内の新規C原発開発計画を推進すれば、エネルギーの毎時メガワット89.50ポンドまで値が下がることになるでしょう。
 「太陽光発電企業は原子力発電所の利潤より少ないと申し入れてきた」とグリーンピース主任科学者のダグ・パー氏は同記事で明かしています。
 デイビー英エネ相が「フランスのエネルギー相が原子力への投資は今後も続けると言っている。」と述べたことを論拠に、安倍政権は「原発再稼働必要論」を頑として固持し続けているのです。そればかりか、3.11直後「脱原発」へと英断した独国メルケル政権が太陽光発電に切り替えて、国民の一世帯辺りがこの1年で約5000円程度の負担が増加したことを指摘して、「だからあいつらはダメなんだ」と反面教師にしていさえいます。
 かような海外の論客の視点も踏まえた上で、東京都知事選を改めてみてみましょう。今、この日本で絶大なポピュリズムの支持を得てきた小泉氏の「原発ゼロで東京五輪成功」を訴える応援演説に、これまで3.11以降、約3年目となる「原子力村」との闘争、「脱原発市民運動」で閉塞した社会に「東京五輪開催地決定」のニュースに希望の光を見出した市民は、小泉氏こそが私たちの代弁者だと歓喜の声を上げたのです。
 

確かな経験と最も具体性ある演説 宇都宮健児候補

一方、同じ原発ゼロ路線を掲げる前日弁連会長の宇都宮健児氏は、他の候補者と比しても、最も庶民派目線で42年間様々な社会問題に取り組んできた弁護士です。クレサラや闇金被害者のためのグレーゾ―ン金利撤廃やオウム被害者救済法立法化、リーマンショック後の派遣切りに遭った失業者に対して派遣村を労組と連携しての支援を行ってきました。同氏は3.11後は全国約3万人の弁護士団を率いて、今でも仮設暮らしを続ける東日本大震災の被災者を支援してきた行動派であり、広範囲に渡り国政にも関与する問題に関わっています。
 その宇都宮氏は同25日12:00に光が丘IMA前で、自らの掲げる最も具体性に富んだ多岐に渡る基本5政策について堂々たる演説を行いました。

1:世界一働きやすく、暮らしやすい福祉の街へ
2:首都圏直下型地震への備え
3:原発輸出反対
4:いじめのない学校/教員管理統制を撤廃
5:安倍政権の憲法改悪は許さない!都政から憲法条例をアジアへ発信

宇都宮氏は3番目の基本政策で、「知事になったら、東京電力の株主総会で新潟県柏崎刈羽原発の廃炉を提案する。」と公約。氏の周りには「原発再稼働反対」や「安倍政権STOP!」などの垂れ幕を掲げる主に3.11後の脱原発市民運動に関わってきた支援者たちが僅かながら集って耳を傾け、度々宇都宮氏の演説に「そうだ!」と相づちを打ち、拍手が沸き起こるなど最も親しみやすく近づき易い温かさを兼ね備えた人物だと筆者は感じました。
 しかし、宇都宮氏は前回次点で猪瀬直樹氏に敗れた東京都知事選の際、開催未定だった東京五輪パラリンピックについては「招致計画反対」を主張していました。
決定された後に「今から東京五輪パラリンピック開催を覆すのは難しい。しかし、莫大な市民の税金をかけて巨大な施設を量産するのではなく、環境に配慮した施設を作りたい」と述べた上で、「(第二次)安倍政権になってから日中、日韓首脳会談がまだ一度も実現していない。軍事衝突リスクを避け、平和の祭典としての東京五輪パラリンピック成功に向け、バリアフリーを実現させていきたい。」と考えを軌道修正しました。
 現在得票予想で先行している舛添要一候補については、「年越し派遣村の支援をしていた際、当時厚労相だった舛添氏は一度も顔を見せなかった。それどころか派遣切りに遭って派遣村に辿り着いた村民に対して、『求人票が4000もあるのに、誰も仕事に就かなかった。(村民は)怠け者だ』と切り捨てた。彼は社会保障の専門家と名乗っていますが、生活保護の母子加算を廃止し、介護保険料を値上げしました。こういう方が福祉の東京都政を行っていくなど、とても支持できるものではない。」と批判しました。

都知事選も終盤に差し掛かり、投票までもう間もなく。TVや新聞、ネットなどで候補者の主張を聞くのも多忙な有権者にとっては主要な情報源です。しかしやはり都民ならば、街頭演説に回る候補者の生の声を聞いて、メディアには映らない聴衆の熱気や、候補者の弁舌がどれだけ説得力があるか、どのような応援者がついているかどうかを一度は現場で見極めてみたいところ。皆さんもこれを機に各候補のTwitterなどで街頭演説情報に目配りし、リアルタイムで候補者の動向を見定めた上で、投票場に足を運ばれてみてはいかがでしょうか?

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