泣ける「ハガキ職人」小説

ハガキ職人と呼ばれる人たちがいます。主にラジオの深夜番組や、雑誌の投稿コーナーなどにネタを送る人たちを指しています。なかにはプロの構成作家として活躍する人たちもいます。


何かになろうとする衝動

作家のせきしろも、ハガキ職人からプロの放送作家になった一人です。そんな彼の自伝的小説が、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)です。北海道に生まれ育ち、地味な高校生活を送りながらも、マニアックな音楽、お笑い、映画などに耽溺し、「自分はほかとは違う」と思っている一人の少年が、友人に誘われるがまま大学浪人の名目で上京しお笑い活動をはじめるところから物語はスタートします。1年ほどの試行錯誤ののち、大学に通っていた友人が出席日数が足りないとお笑いコンビを解散。そこで、少年は東京の野に放たれてしまいます。このあたりは、何かを夢見て上京した人たちのあるあるといえるでしょう。

読まれない理由は?

その後、主人公はラジオ番組にハガキを出すようになりますが、そこで読まれないと、実力のなさを棚に上げて「郵便事故が起きて届いていないのでは?」と勘ぐり始めます。いまはラインの既読機能で到着がすぐに確認できる時代ですが、かつては郵便を媒介し、時間差でパーソナリティーとハガキ職人がコミュニケーションを成立させる時代があったのです。きわめて特殊でありながらも、これもひとつの青春小説の形といえるでしょう。

    
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