TV番組の視聴率調査対象数は少ないのか?

TV番組の視聴率調査の調査対象数が少なすぎるとか、視聴率調査はごく一部の視聴者を調べているだけなのだから、視聴者全体のことがわかるはずがないといったことが視聴率に関する議論でよく問題となります。本当にTV番組の視聴率調査対象数は少ないのでしょうか?


視聴率の信用

「誤差が大きいので視聴率は信用できない」
「もっと調査対象数を増やして誤差を少なくするべきだ」
「視聴率調査はごく一部の視聴者を調べているだけなのだから、視聴者全体のことがわかるはずがない」

これらはいずれも妥当性を欠いた議論です。まず、これらの議論は調査の経済性を無視しています。次に、これらの議論は視聴率調査の限界や弱点ばかりをあげつらい、効用の部分を見逃しているからです。

視聴率調査にかかる費用

ビデオリサーチ社の視聴率調査は、少ない地区では200世帯、多い地区では600世帯を対象に実施されています。これに対し、多くの調査機関による調査は、数千の標本で行われているため、いかにも調査数が少なく見え、「そんなに少ない数で、果たして大丈夫なのか?」という疑問を持つ人が少なくありません。調査サンプルを拡大すれば、「標本誤差」は少なくなり、調査の「精度」が高くなることは確かです。「全数調査」にすれば、より完全な調査ができるのは間違いありません。しかし、それは可能なのでしょうか? 望ましいことなのでしょうか?

2000年に行われた国勢調査に、国は83万人の調査員と780億円を投じました。ビデオリサーチの06年度の売上は、202億円です。とても国勢調査なみの経費を費やす余裕はありません。また、報道各社や官公庁の行う調査と比べて視聴率調査は頻度が多いのです。365日休みなしに調査し、「TV視聴率日報」というレポートで、前日の調査結果を毎日報告しています。全国から送られてきたデータを1年以上もかけて集計・分析する国勢調査とは求める速報性が違うのです。

視聴率調査における誤差のレベルは

「標本数600のとき、視聴率10%の場合、信頼限界95%で標本誤差は±2.4%」ととなります。標本数を4倍の2400世帯にすると、誤差はこの半分の±1.2%になります。しかしこの1.2%の誤差にはかなりのコストがかかります。問題はこのコストを、クライアントである広告代理店やテレビ局が負担できるかどうかです。また、調査サンプル数は、調査主体であるビデオリサーチ社が一方的に決めているのではありません。「これくらいのコストで、これくらいの精度の情報が欲しい」という需要者(ユーザー)の側と、「それくらいのコストなら、これくらいの精度の情報を提供できます」という供給者(ビデオリサーチ社)の側との合意の結果なのです。需要者にとっては、正確性を重視した結果、サンプル数を増やしすぎ、コストばかりがかかりすぎても困ります。また、結果が得られるまでに時間がかかり、「報告書」が欲しいときまでに手に入れることができないのであれば、本末転倒となってしまいます。標本数は需要者と供給者の間の合意で決まるものであり、そのコストを負担していない第三者が「増やせ」と命じても、増えるものでも増やせるものではないのです。

どこまで正確な視聴率調査が必要なのか

もし視聴率が公共性を持ち、100%正確な調査がどうしても必要だというのであれば、総務省などの国家機関が実施する調査の規模を大幅に拡充し、多額の資金を投入してでも調査すべきでしょう。しかし、新たな出費拡大を国民は歓迎するのでしょうか。また、視聴率調査は「全数調査」ではなく「標本調査」である以上、ある程度の「標本誤差」からは逃れられません。また「何をもってあるテレビ番組を見た」と判断するかなど「視聴の定義」に関わるさまざまな問題も存在します。

しかしこれらは、他のほとんどの社会調査・統計調査にも共通して見られる「限界」や「宿命」であり、視聴率調査だけが、不十分なわけでもなければ、使えないわけでもないのです。

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参考本

「視聴率の正しい使い方(藤平芳紀)」

    
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