漫画出版社を飛び出した、漫画家の話。出版社を離れ電子出版をした理由とは!?

今回の記事は、漫画出版社を飛び出した、漫画家「ごとう隼平」さんより寄稿いただいた記事です。

漫画家のごとう隼平と申します。私は2年程前に少年サンデー系の月刊漫画雑誌で『銀塩少年』という連載をしてました。私は2003年くらいに初めて出版社に漫画を持ち込んでいますので、かれこれ10年以上、ひとつの出版社と一緒にやってきたことになります。しかしこの度、私はそれまでの出版社を離れ、個人で独立して電子出版を始めることに決め、最新作「金魚ガールズ」をKindle, iBooksにて発売いたしました。出版社を離れた理由、新しい時代の漫画家と出版社の関係、これまで自分の作品について語ることは多くあったのですが、出版社について言及したことはあまりなかったので、今回寄稿させていただくにあたり、そのあたりに重点を置いて、お話させていただければと思います。


■出版社を離れ電子出版で独立したきっかけ

たいてい多くの漫画家は、お金を稼ぎたくて漫画家を目指すのではありません。自分の作品をより多くの人に読んでもらいたくて漫画家を目指します。これまで自分の作品を多くの人に読んでもらうには、出版社に通い、プロになるほかありませんでした。

しかし現在、インターネットが普及し、発表の場は増え、その気になれば個人ですぐに漫画をWEB上に掲載し、評価を得ることができるようになりました。大変な思いをしてプロにならなくても、それが叶う場所ができてしまったのです。

その結果、出版社に新しい才能や感性が集まることが、以前より減ってしまいました。私はこのことが一番、いま多くの出版社を包んでいる停滞感に繋がっているのではないかと考えています。どこの出版社もWeb連載の場を始めてみたり、挑戦はするのですが、そこに若い感性が反映されないので、どこか二番煎じだったり、新しいことに乏しい印象を受けます。

ところで、これは個人的な私の力不足により長らく次の連載が決まらなかったこともあり、私自身も新鮮な空気を求めていました。そんなおり、昨年10月に米国からキンドルがやってきたんです。まったく新しい世界、何かが変わる気がしました。今後出版社で漫画を描くにせよ、ここは一度、新しい風を感じてくるのも良いのではないかと思い、電子書籍を出版することに決め、長らくお世話になった出版社からひととき離れることにしました。

■現在の漫画家の現状

先ほど簡単にWEBに掲載することができるようになった、と書きましたが、そのように発表の場が増えた分、漫画家の数もそれと同じだけ増えています。私もクラブサンデーという小学館のWEB連載部門出身なので、その一人です。(連載中に誌面へ移動しました。)そして今、新人漫画家が増えたことが、新人漫画家の価値を下げてしまっているように思えます。本来なら漫画家の価値は、その作品にあるはずで、作家の数は関係ないはずなのですが。

連載の場が増え、漫画家が増え、そうなるともちろん新刊の数も増えることになります。書店には毎日大量の新刊が届くそうです。その結果、多くの作品はほとんど人目に触れることなく返本されてしまい、そんな中で結果を出せる新人は少なく、それがまた新人の価値を下げるという悪循環が起こってしまっています。何をやってもなかなか結果につながらない、新人の漫画家には、大変な時代になってしまいました。

一方で中堅の作家さんたちも悩んでいると思います。雑誌の部数が右肩下がりな今、このまま出版社と共に漫画を描き続けるだけでいいのか、不安を持っていない作家はいないでしょう。私などよりはるかに実績のある先生方の中にも、WEBや電子書籍の分野を模索し始めている方は増えています。

■電子書籍の今後と可能性

漫画出版業界の低迷を招いているのは、未だ紙の雑誌に主力を置き、WEBや電子書籍を新人発掘の場や実験場くらいにしか扱っていないことに大きな要因があると思います。

現状では新人は不利な場所で戦うことを強いられています。逆に中堅以上の先生方は、紙の雑誌で守られています。紙の雑誌は、掲載されるだけで単行本の集客効果がありますからね。でもそれではきっとだめなのです。

紙の雑誌とWEBや電子書籍が等しい価値を持つようになったとき、時代は変わると思います。新人も中堅も大先生も、同じ舞台に立って、作品同士で競い合い、価値が決まるような、そのようにならなければ、普通に考えて面白くありません。名もない新人だけの実験場、守られた雑誌、そんなところに人が集まらないのは当然ですよね。

そういう意味で、WEBや電子書籍には未来と可能性があると思います。きっと近い将来、紙の雑誌と同じかそれ以上の価値を持つようになります。本誌と同じ漫画雑誌が、PCや携帯やタブレットに配信される、そんな日を今から楽しみにしています。

また、電子書籍は個人にも開かれています。現段階でここが市場として成立するかまだ分かりませんが、時代が変わり人が集まるようになれば、出版社の漫画雑誌の枠を超えた自由な作品も読者を得られるようになるかもしれません。今回の私の作品も、漫画ではない新ジャンルですので、そんな作品の一つです。多様性のある未来を、期待しています。

■現状の漫画出版社の課題

紙の漫画雑誌の発行部数はどんどん下がっており、いま出版社は自信をなくしているような状態ではないでしょうか。だからそんな中でも、確実な売上が見込める実績を持った中堅以上の先生方に、その価値が集まっています。偉大な先生方を大切にするのは、大事なことだと思います。でももしかしたら、現状ではそのことで、身動きが取れなくなっているのかもしれません。

先にも書きましたように大先生、中堅以上の作家さんたちも、ちゃんと新しい場所に投入できるか、ここがもっとも肝心だと思います。大御所の先生方に失敗はさせられないと、いつまでも動くことができなければ、出版社が復活する日は遠いでしょう。

また先に書きましたように、逆に新人は負のスパイラルでその価値を落とし、声を上げられずにいます。でも本当はそこには、エネルギーもアイデアもたくさんあるんです。みんな生き残るために必死ですから。私は多くの新人の作家さんたちと話しましたが、必ず現状を打開するアイデアをいくつも持ってます。ですがなかなか出版社に聞き入れられない。聞き入れられない訳を突き詰めると、結局は「そんな前例のないこと、偉い先生方がよく思わない」的な、よく分からない理由だったりするんです。

新人なんだから大人しくしとこうね、という発想がもしこの現代にまだあるとするなら、私は今すぐ180度、その姿勢を変えるべきだと思います。

■出版社が立ち直るとすればどうすればよいか?

漫画雑誌の減少は時代の流れから言って、仕方ないように思います。通勤電車の中、学校の休み時間、それまで漫画雑誌のあった場所に今あるものは携帯やスマートフォンです。いくら出版社が頑張ったところで、これが再び紙の漫画雑誌に置き換わる未来は、、あまり想像出来ません。

ですから一日も早く、新しい時代に賭けましょう!

漫画に価値がなくなってしまったわけではありません。きっとむしろ、まったく逆です。携帯からの検索ワードの上位に「暇」というワードがあるのをご存知でしょうか。携帯電話はただの入れ物です。SNSやゲームだけではなく、その中で手軽に読めるコンテンツを、ユーザーは求めているはずです。

実は日本の出版社が作り出した漫画連載のシステムは、最速のエンターテイメントなのですよね。週に一度、クオリティの高い絵とストーリーを用意できる、これは現在のサイクルの早いインターネット社会の中でも強い魅力になり、「暇」なんてワードを検索させる暇を与えないはずです。

現状では、需要と供給がうまく回ってませんが、スムーズに漫画連載を各端末に配信できるようになった時、再び通勤電車の中、学校の休み時間に、必ず漫画は戻ってくるでしょう。もちろん主力の事業を変えていくなど、口で言うのは簡単ですが、実際はとても大変なことなのは分かってます。でもだからと言って手をこまねいてはいられないはずです。私は漫画の復活を信じています!

以上のようなことは、私が出版社から離れたことでより鮮明に見えてきたことです。新しい世界に触れ、新しい見方を得ただけでも、自ら出版した価値はあったと思います。私は新しい空気を吸いたくて飛び出しましたが、吸うどころか強風すぎて飛ばされそうなくらいですが、、開いた扉から風が入り、以前お世話になった出版社にも、わずかにでも新鮮な空気の循環が起きたらいいなと考えています。

最後に私の新作『金魚ガールズ』の話をさせていただくと、こちらはキャラなしストーリーなし、今までの出版社の漫画作りの方針からすると、100%受け入れられない作品です。そもそも紙ではあり得ません。デジタルの液晶のみ再現できるフルカラーイラストとシンプルな文章で綴った、イラストレーションブックです。

よろしければぜひご覧ください。お読みくださったあなたのお手元にも、新しい風を感じていただくことができましたら、この上なく嬉しく思います。ありがとうございました!

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