家庭医は家族全体を診る

家庭医の仕事はその名が示す通り、その患者一人だけを対象としたものでなく、家族全体を診ることを意味すると、こさか家庭医医療クリニックの小坂文昭さんは言っています。その家族がどんな状況にあっても、家族を構成する一人ひとりが必ずどこかで影響し合っているというわけです。

子供を診ながら母親も診る

例えば、3歳の子供が具合が悪いと来院した場合、連れてきた母親のことも診ることにしていると小坂さんは言います。よくあるのが、子供の体を支えている母親の手がすごく荒れていることだとか。そういう時は母親に手荒れ用の塗り薬の処方を勧めると言った具合です。母親が風邪を引いているようであれば、同じく風邪薬を処方するか尋ねます。ただし、あくまで本人の希望が優先で、強引に勧めることはしないと言います。

診察以外のアドバイスも

それでも、小坂さんが見つけた問題からいくつか質問することで診察に繋がることは多いそうです。また、診察だけでなく、手荒れに対してはゴム手袋を使うように教えたり、市販の保湿剤の使用を勧めるなど、細かいアドバイスを加えることも欠かせないとのこと。家庭医は、家族にとっての知恵袋の役割も担っているというわけですね。

訪問医療は家族と話す時間を多く

小坂さんは、院内での診察のほか、訪問医療も積極的に実施しています。常日頃診ている患者の家族の元に頻繁に出向き、話をする時間は大事だと小坂さんは考えています。1軒につき20分ほどの滞在時間で、血圧測定、問診、触診、聴診と一通り済ませる間、「なにか気になることはありませんか?」など、本人のことから家族のことまで尋ねるとのこと。特に容態に変わりがなければ、診察は10分弱で終了。むしろ相手と話をする方に時間を多く割いていると言います。

相手の話を聞くだけ

訪問した際、家族と話すのは、「この前、花見に行ってきたんですよ」など何気ない近況がほとんど。小坂さんは、その話をただ静かに聞いているのだと言います。その狙いは、家族に少しでも安心してもらい、ストレスを発散させることにあると言います。

認知症で役立つ家族の把握

小坂さんのこうした行為は、高齢者夫婦、すなわち老老介護のケースで重要な鍵になると言います。このケースでは、介護する人自身が認知症を患ってしまうリスクがあるというのです。もし発症した場合、主治医として「主治医意見書」を書くことになり、患者の健康状態や生活状況を記載します。その中身のほとんどはチェック方式になっていますが、小坂さんは、備考欄の書き方が重要だと指摘します。頻繁に家族の元を訪れていれば、家の中の構造も把握でき、廊下をバリアフリー対応にするよう、備考欄で提言することもできるというわけです。小坂さんは「家族を見るのが家庭医の仕事」と繰り返しますが、それは人のみならず、家の状況や環境まで及ぶこともある。その裾野の広さには驚かされます。 参考書籍:小坂文昭著「ムダな通院を減らすたった1つのこと」(BYAKUYA BIZ BOOKS刊) 筆者プロフィール 足立謙二 時事通信記者を経てフリーライターに。雑誌「昭和40年男」、ねとらぼなどエンタメ系サイトなどでサブカル、アニメ、特撮などを中心に執筆。Twitterアカウントは@adaken