沢木耕太郎「246」の世界

沢木耕太郎といえば『深夜特急』が代表作と言えます。旅の作家といったイメージがありますが、本来ならば旅ばかりに限らない多くのルポルタージュ作品を作り上げています。ルポルタージュの一人称は私であり、私が何を見聞きしたのか、どのように感じたのかといった感情の機微が記されています。

日記に書かれた世界

そのような沢木耕太郎の作風の中で異色の一作といえるものが『246』(新潮文庫)です。本書は約1年間にわたる日記が記されています。どのような本を読み、誰と会い、どのように締め切りをこなしてゆくのか。その日々が淡々と記されています。あるいは娘が育ってゆく様子を記した観察日記とも読めます。沢木耕太郎その人の、あらゆる場面が詰め込まれている、記されているものだといえるでしょう。

深夜特急執筆

さらに本書でもっとも注目すべきポイントは『深夜特急』が執筆過程にある点ですね。実は『深夜特急』は旅行記という形を取っていますがすぐに執筆されたわけではありません。10年以上のタイムラグがあるのです。そうした時間差があるからこそ、興奮をダイレクトに書き綴るといったことではなく、一歩引いた場所からあらためて記憶の糸をたぐりよせながら読んでゆくということにつながるのでしょう。そこにおいては、適切な距離感というべきものがあり、それはある意味においてはルポルタージュの手法のひとつとしても浮かび上がってくるでしょう。