「モダリティ」を駆使した効率的な記憶方法

脳科学者で有名な茂木健一郎は、昔から記憶力には自信があったそうです。高校時代、定期試験の前になると教科書を全文丸暗記するようにしていました。全文を覚えていく過程で使っていたのが、全文暗記用単語カードです。これは、少し大きめの単語カードを使って自作したものです。この勉強には、「モダリティ」を駆使した効率的な記憶方法を紹介します。


■全文暗記用単語カード

全文暗記用単語カードは、表側に、教科書のポイントとなる文章を書き写します。特に暗記したほうがよい単語や用語を空欄にしておき、裏側にその答えを書いておきます。このカードはクラスメイトのあいだで評判になり、「茂木のカードはすごい」「そのカードを使わせてほしい」とよく頼られたものです。

■全文暗記用単語カードのメリット

この勉強法のメリットは2つあります。ひとつは、「細切れ時間勉強法」に役立つこと。もうひとつは、カードをつくる時に自分の手で書きながら覚えるため、記憶効率が高まるということです。では、自分の手で書くことが、なぜ記憶の効率化につながるのでしょうか。その前にまず、脳が情報を記憶する時のメカニズムについて考えてみましょう。

■記憶のメカニズム

記憶は、脳の大脳皮質にある側頭葉の側頭連合野というところに蓄えられます。そして、側頭連合野は、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚といった五感や、自分が行動する動機や心的態度などのさまざまな機能、いわゆる「モダリティ」を統合するところでもあります。この連合野には、ある特徴があります。さまざまなモダリティから働きかけたほうが、記憶が定着しやすいのです。

例えば、英語なら、英語を黙読するだけではなくて、英語を耳で聞く、目で見る、声に出して読む、そして手で書く。さまざまなモダリティを統合的に使って覚えることによって、より記憶を定着させることが可能になります。とにかく大量に読み、大量に書き、大量に聞いて、大量の問題を解く。これが、脳に記憶を定着させる唯一の方法なのです。

■量をこなすだけでは記憶はできない

だからといって、やみくもに量をこなすだけでも記憶はうまくできません。それは脳の「記憶回路」の使い方が間違っているからです。ものごとを記憶する時、人間の脳は「記憶回路」というある特定の回路を使います。この記憶回路を使って記憶しようとしていなければ、紙に何度書こうが意味がないのです。

■脳が記憶を定着させるしくみ

脳が記憶を定着させるしくみについて、簡単に説明しましょう。記憶には、すぐに消えてしまう「短期記憶」と、忘れようと思ってもいつまでも頭の中に残っている「長期記憶」の2種類があります。最終的に記憶が収納されるのは、大脳皮質の側頭葉です。その際には「長期記憶」という安定したかたちで保存されます。ここで、勉強したことを長期記憶として保存する際には、「海馬」が重要な役割を果たします。この海馬の働きがなければ、その情報が長期記憶として蓄えられることはないのです。また、感情にかかわる脳の働きの中枢である「扁桃核」は、近くにある海馬の活動に影響を与えます。さまざまなモダリティから働きかけると、扁桃核と同時に海馬をも活性化させ、記憶が定着しやすくなります。そして、海馬に記憶されているもののうち、何度も反復して脳にアクセスされたものは、「重要である」と判断され、側頭葉に送られて、長期記憶として定着するのです。これが記憶のしくみです。

■記憶回路を使って記憶しよう

では、記憶回路を使って記憶するとはどういうことでしょうか。英文を覚える時を例にとりましょう。まず英文を見ます。次に、それを書き写すわけですが、英文を見ながら写しては意味がありません。一度英文を見たら、そこから目を離して、写すのです。これを何度も何度も繰り返します。ここでポイントになるのは、原文から目を離すということ、つまり一時的に頭の中に記憶し、それを書き写す作業にするべきなのです。原文を見ながら書き写すプロセスの中には、「記憶する」という作業が抜けているため、記憶が定着しないのです。

これが「記憶回路」を使って書くということです。「モダリティの統合プロセス」を駆使するとは、上記のようなことをいいます。ただし、モダリティを駆使して記憶する作業は、脳に大きな負荷がかかります。100メートルダッシュを何本も繰り返すような消耗感があります。

たしかに楽な作業ではありませんが、これを繰り返すことで記憶の定着は段違いによくなるはずです。

「脳を活かす勉強法(茂木健一郎)」の詳細を調べる

    
コメント