金子光晴と旅

金子光晴と旅は切っても切れない関係であるといえるでしょう。金子光晴の代表作は『マレー蘭印紀行』にはじまり、晩年に執筆された『どくろ杯』など、名作が数多くあります。

原点はどこにある?

金子光晴の人生は旅とともにあったといえるでしょう。そんな金子光晴の旅の原点を感じられる本が『マレーの感傷:金子光晴初期紀行拾遺』(中公文庫)です。本書はのちに出版する『マレー蘭印紀行』や『ねむれ巴里』などへつながる、東南アジアやヨーロッパ旅行のエッセイをまとめたものです。内容はその場その場で発表されたものが多く、当時の金子光晴の足跡をリアルタイムで知ることができる貴重な資料となっています。文章と同時に執筆された図版もありますので、彼が何を見聞きしていたのかを間近で感じ取ることができます。

記憶がどう文章化されるか

当然のことながら、旅はその時々の一回の体験となっています。それをどのように文章に起こしていくのかといったギャップを見られるのも本書の特徴でしょう。当時、移動は飛行機ではなく船でした。そのためヨーロッパまでの旅は数十日かかることになります。それだけ遠い距離の場所を目指すことになるわけですから、当然のことながら現地で命を落とす可能性もあります。旅は命がけであったことがわかるでしょう。ヨーロッパでお世話になった人に再会を誓う時、次はお墓に会いに来てくれと言われたというエピソードは、儚さの極みともいえるでしょう。