思い出の場所を再訪すること

かつて訪れた場所をもう一度訪れてみる。そんな体験をした人はいるでしょうか。記憶の片隅にある断片を整理して、現在と重ね合わせていく。そのような過去の思い出をさかのぼる行為は、グーグルマップやストリートビューなどを使えば簡単にできてしまう時代となりました。しかしながら、直接訪れて、自分で見聞きすることの価値もあるでしょう。


25年のギャップ

小林文乃による『グッバイ、レニングラード :ソ連邦崩壊から25年後の再訪』(文藝春秋)は、子どものころにソ連崩壊直前のソ連を訪れた著者が、25年後に同地を再び訪れる旅行記です。テレビ番組の企画として訪れたもので、ロシアを代表する作曲家のショスタコビッチが、多くの餓死者を出したレーニングラード、あるいはサンクトペテルブルクと呼ばれる都市の戦いの中で、交響曲を書き上げた理由に迫ろうとします。この部分に関しては資料に頼りっきりの部分があるので、掘り下げてられていない印象を受けます。しかしながら、著者自身の体験となると、やはり文体は強度を持ちます。

家族の話も

著者の両親は学生運動で出会い、共産主義国家であるソ連には憧れがあったそうです。さらに祖父は満州でソ連軍に一時勾留された経験もあります。それゆえに、必然的にソ連が身近となった著者が、子どもの時にテレビ局の企画で同地を訪れ、直後に軍事クーデターからソ連の崩壊へと至る。この時代に生まれた偶然、必然を感じ取ることが本書の醍醐味のひとつだともいえるでしょう。

    
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