「博士の愛した数式」の作者が描くチェスをめぐる物語

チェスを題材にした文学は世の中に多くありますが、ただのチェス対決では終わらない物語、それが「猫を抱いて象と泳ぐ」です。作者は「博士の愛した数式」で有名な小川洋子氏。今回は静謐で美しい物語を紹介します。


■チェスの天才、リトル・アリョーヒン

リトル・アリョーヒンは口が塞がった状態で生まれ、開口手術の際に脛(すね)の皮膚を唇に移植されたことで、唇から毛が生えるようになった人とは少し違った少年。彼がリトル・アリョーヒンと呼ばれたのは、”盤上の詩人”の称号を持つ実在のチェスプレーヤー、アレクサンドル・アリョーヒンを模したチェス人形の中に入り、チェスを打つようになったことに由来しています。
 

■大人になることを拒否する少年

大きくなることを恐れたリトル・アリョーヒンは、成人しても体は少年のように小さいままで成長することなく、チェス人形の中でチェスを打ち続けます。
デパートの屋上に取り残された象のインディラ。壁と壁の隙間に挟まったまま動けないミイラ。太りすぎてバスから出られなくなったマスター。この物語の登場人物たちのほとんどは、大きくなることで身動きが取れなくなり、置き去りにされ、そこで一生を終えています。「大きくなることは、悲劇である」。これがこの物語のひとつの大きなテーマとなります。
 

■一生をチェス人形の中で

どれだけ時間が流れ、場所が変わろうとも、少年はチェス人形の中でチェスを打ち続けます。
大きくなることを拒否した少年の最期とは……。
 
ポーンと名づけられた猫を抱き、ビショップのインディラと共にチェス盤の海を泳ぐ、リトル・アリョーヒン。静かな力強さがただよう作品です。あなたもリトル・アリョーヒンとともに、チェス盤の海を泳いでみてはいかがでしょうか。
 

「猫を抱いて象と泳ぐ(小川 洋子)」の詳細を調べる

    
コメント