心で感じてほしい一冊。ふたりの女性の関係を描いた物語

朝吹真理子原作のきことわ。多くの審査員が絶賛しての芥川賞受賞作ということで話題にもなったこの本。題名の『きことわ』とは、ダブル主人公ともいえる二人の女性、永遠子と貴子のことです。絡まりあう二人の時間をあらわした題名にも受け取れます。では、一体どのような物語なのでしょうか。


■永遠子は夢を見る。貴子は夢を見ない

物語は永遠子が二十五年以上前の夢を見ているところから始まります。【永遠子は夢を見る。貴子は夢を見ない。】という、二人の対象性を表した冒頭の文がとても印象的です。

二十五年前の過去と現実を行き来するような形で、二人の話は進みます。その中で過去現在問わずにでてくる宇宙や星、化石といった事柄は、一見永遠を彷彿とさせるようで、限りある時間の象徴として語られているかのようです。

ある時、永遠子と貴子はそれぞれ違う場所で、見えない何かに後ろ髪を引かれて、尻餅をついてしまいます。後悔があるわけではないが、ふと思い出してしまう過去。もの悲しさを感じるワンシーンです。

海の思い出、永遠子と貴子が二人絡み合って車の中で眠ったこと、死んでしまった貴子の母親との会話……物語を通して、目立った事象や事柄などは特にありませんが、二人の現在と過去のやりとり、そしてその記憶は、限りなく透明度が高く優しく、心に響きます。しかし、透明な中にも物語の細部にまでしっかりとした匂いや温度、味覚の描写があふれているので、決してただ美しいだけの物語では終わりません。

■物語全体に漂う透明感

言葉が染みるように入ってくるのは、作者の技術の高さと言うよりも、言葉を選ぶ才能なのでしょう。貴子の母親である春子の言葉から物語が始まり、夢の中の夏、現実の秋を経てもうすぐ雪が降る季節で物語は終わります。

読む季節を選ばないというよりも、読む季節によって感じ方が変わってくる、様々な可能性を秘めた物語ではないでしょうか。頭で理解するのではなく、心で感じてほしい一冊です。

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