もうひとつの歴史を知る旅

歴史というのは、絶対的な事実の積み重ねによって成り立っていると思われがちです。特に教科書に載っているような内容に関してはそうでしょう。それが学校の試験に出され、本となり、研究の根拠、エビデンスとなって歴史が積み重ねられてゆく。しかし、当然、その過程でこぼれおちる事実も存在します。


スポットをあてる

そのような知られざる歴史、こぼれ落ちる歴史に焦点を当てた本が保刈実による『ラディカル・オーラル・ヒストリー:オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践 』(岩波現代文庫)です。著者は、大学院まで経済史を学びました。その後オーストラリアに渡り、先住民であるアボリジニーたちが語る歴史に注目します。彼らが語る歴史は物語性を帯びており、史実とは異なるものも多くあります。通常、レアなケースであれば、歴史からは退けられ、文学や文化人類学において神話や伝承といった形で扱われます。しかし、その分断に著者は疑問を投げかけます。複数の歴史、もうひとつの歴史がありえるのではないか。それゆえに「ラジカル」の文字を表題に据えました。

歴史をする

著者は歴史は過去の古びたものではなく、現在にも生き続けるものだと主張します。それを「歴史する」として動詞の「do」を用いました。その過程にあるものは、先住民の話を単なるそういう話、よくある話として退けるのではなく、著者自身がきちっと向き合おうとする姿勢です。よく知られているように、オーストラリア大陸は先住民のアボリジニがいた土地に白人が入植したことで異なる他者が出会い、作られた場所です。過去には不幸なすれ違いや対立があったのも確かです。そうした過去の反省があるからこそ、オーストラリアでは複数の歴史の共存といったものが志向されているのでしょう。もちろん、著者は本書でひとつの形を提言しているのであり、実践は未来の世代に委ねられているといえるでしょう。フェイクニュースや偽史の氾濫がネットで起きている現在、著者の問いかけは重要に響いてくるようにも思えます。

    
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