暴力的過激主義対策(CVE)サミットで呼びかけ 対テロ教育の必要性とプロパガンダ対抗の強化

カナダのオタワ、豪州のシドニー、仏国のパリ、そしてデンマークのコペンハーゲン。イスラム国(ISIL)の呼びかけによってグローバルテロリズムの飛び火が今まさに世界中を震撼させています。

これを受けてオバマ米大統領は2015年2月17日から19日まで暴力的過激主義対策(CVE)サミットをホワイトハウスで主催しました。国外の欧州メディアでも英「ガーディアン」紙Anti-terrorism summit reinforces ”fear and hate” towards Muslims, critics warn(2015年2月13日)という記事をはじめ、サミット主催前から「イスラム・フォビア(イスラム嫌悪)」に警鐘を鳴らす報道が目立ちました。

米国務省報道官のマリー・ハーフ氏はMSNBCのクリス・マシュー氏が司会を務める月曜夜のニュース番組に出演。同番組で「イスラム国(ISIL)に対しオバマ政権は対テロ戦略に欠けているのではないか?」という司会者の問いにハーフ氏は「米政府はイスラム国の戦闘員を殺害することではこの戦争に勝つことができないと考えている。イスラム国に戦闘員として参加する人々を駆り立てる根本的な原因を突き止めるには中長期の戦略が必要だとみている。」と答えています。

今回はCVEサミットの成果を振り返りつつ、今後いかにISILとのテロ戦を打開するかを探っていきましょう。


国際安全保障学研究から投げかけられた10の推奨対策案

「Foreign Policy」Ten Recommendations for Obama’s CVE Summit(2015年2月18日)の報道によれば、CVEサミット開催にあたり国際安全保障学研究分野からも10の対応策が推奨されました。

1.大ムフティー(スンニ派イスラム教国におけるイスラーム法に関わる官吏の最高位)レベルの国際的な宗教学者を招集せよ。何がイスラム教徒過激主義とされるのか、いかに彼らの尊重する伝統や基準が異なるのか、そして我々は自国の共同体で過激派の目覚めについてどうすべきなのかということを特に確認する、公式声明を議論すべきだ。

Convene international religious scholars at the Grand Mufti level to issue public statements that specially identify what counts as Islamist extremism,how their own respective traditions and norms are different,and what we should do about rising extremism in our communities.

2.事実を正確に掴め

Get your facts straight.

3.イスラム教徒戦略 対 イスラムの価値に焦点を当てた対テロ政策を開発せよ

Develop counterterrorism policies focused on Islamist strategy vs. Islamic values.

4.イスラムの多数派を自治と能力を兼ね備えたパートナーと見做せ

Treat Muslim-majority states as partners in governance and capacity building.

5.国内でまた国際的にも発議権を持つ法の支配を築きあげよ

Build on rule of law initiatives locally and internationally.

6.米国の対テロ政策の失敗を教訓的な話として受け止めよ

Take U.S.counterterrorism failures as a cautionary tale.

7.テロリストに彼らが望む戦争を仕掛けようとするな。しかし率先して核となる政治的文化価値を護れ

Try not to give terrorists the war they want-but be willing to protect core political cultural values.

8.国際法を行使せよー特に国連安保理決議2178

Leverage international law - notably U.N. Security Council Resolution 2178

9.地政学的かつ戦略地政学の現実と同盟国、結果を認識する方法でそれを賢明な判断に使え

Use it judiciously in ways that recognize geopolitical and geostrategic realities,alliances,and consequences.

10.過激主義と戦う女性たちをエンパワーメントせよ

Empower women in the fight against extremism.

このうち、第1案に着目してみましょう。

2014年12月14、15日に、サウジアラビアの首都リヤドに在する「キング・ファイサル調査イスラム研究センター(KFCRIS)」で「臨時紛争下におけるシャリーアとイスラーム戦争法の役割」と題したワークショップが行われました。「Foreign Policy」の記者らが前米国大使で現在はKFCRIS議長のターキ・ビン・ファイサル・アル・サウド王子の招待を受けて参加し、イスラーム戦争法について学んだといいます。

「東京新聞」特報(2004年11月1日)報道から基礎知識を押さえておきましょう。イスラーム戦争法では「戦闘にまったく従事していない民間人の捕虜であっても、健康な成人男性である場合は戦闘員の捕虜と同様に扱われ、裁判なしでも司令官の一存で死刑に処することが認められている」とされています。

ワークショップに参加した前述の記者らは「イスラム国(ISIL)のような過激なイデオロギーや破壊的ダイナミクスを、一般的なイスラム教徒は抵抗感なく受け入れてしまいがちなのだ、とほとんどの人々が知っている以上に、イスラム教権威の中でも非常に保守派の権威者でさえも、今すぐに重大な懸念を示すべきだ」と感じたそうです。

米国の調査会社「ピュー・リサーチ・センター」の「グローバル・アティチュード・プロジェクト(PAC-GAP)」が行ってきた近年の「ムスリム・パブリックス」調査(2013年9月10日)によれば、イスラム教過激派と彼らの支持者に関心を寄せる一般のイスラム教徒の数が増加してきていることを指し示すエビデンスが、数値上でも得られていました。

「サイバー脅威情報統合センター」設置もサイバー攻撃に脆弱な米国サイバー防御力

ソーシャルメディアを活用し、世界中にテロを連鎖させているイスラム過激スンニ派組織イスラム国(ISIL)。2014年12月にソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)が北朝鮮によるサイバー攻撃を受けたことを皮切りに、ISILのメディアハッキングがテロリスト集団の最大の標的である米国内で横行していることもオバマ政権の今般の頭痛のタネ。米オバマ政権のサイバーセキュリティの手腕が問われてきました。

CVEサミット2日目の夜に放送された「CBS EVENING NEWS」(2015年2月18日)では、イスラム教徒の過激化は、数年前まではモスクでの説法で10人から20人の男性が覚醒していた。しかしそれも今ではオンライン上で繋がり、1000人から1万人単位に推移していると報道。元CIA副長官のマイケル・モレル氏は同番組に出演し「米国では何がイスラム教徒にとって正しいことなのか、正しくないことなのかの導がなく、各地方ごとのモスクの金曜礼拝でイスラム教の聖職者たちがアッラーの神のメッセージとして掲示を発してきた。ヨルダンのアブドラ国王やエジプトのアル・シシ大統領がイスラム教の聖職者の地位にあり指導者として考えられているのが主流だ。」と語りました。
2015年2月16日に公表されたCNNの世論調査によれば、オバマ氏の対ISILサイバーテロ攻撃対策への評価は60%が不支持です。

しかし情報通信技術の国連専門機関である国際電気通信連合が毎年行う世界各国のサイバーセキュリティ能力の格付けランキングでは、2014年度の調査結果によると米国はサイバーセキュリティ1位をマークしています。

実は2015年2月10日にリサ・モナコ米大統領補佐官(国土安全保障・テロ対策担当)が、9.11を受けて創設された「国家テロ対策センター」をモデルとした「サイバー脅威情報統合センター」を米政府の新機関として設置すると発表していました。

これはテロ犯罪を取り締まる米国家安全保障局(NSA)、米中央情報局(CIA)、米連邦捜査局(FBI)、米国土安全保障省、国防省、司法省などの独立した政府機関の対テロ機密情報を横断的に調整するコーディネーターの役割を担った機関とされています。
しかし、「Observer」Pentagon Chief Weapons Tester: Almost All Military Programs Vulnerable to Cyber-Attacks (2015年1月22日)という記事では、米国防総省マイケル・ギルモア運用試験・評価局長が「ほとんど全ての軍事プログラムがサイバー攻撃に脆弱であるという試験結果が出た」と報告したと伝えました。

「核を超える脅威 世界サイバー戦争 見えない軍拡が始まった」(リチャード・クラーク、ロバート・ネイク著)は刊行されたのが2011年とやや古いデータではありますが、総合的なサイバー戦争の能力を米、露、中、イラン、北朝鮮と比較した際、米国は攻撃力だけなら他国を圧倒するものの、サイバー依存度と防御力では5か国中、最低点と兼ねてから指摘されていました。

対テロ教育必要 オバマ米大統領演説「対テロ行動計画」策定

オバマ米大統領は2015年2月19日のCVEサミットで演説し、「ISILがイスラムの正統な代表であり、ジハード(聖戦士)が必要だという間違ったイデオロギーの刷り込みを行っている。これによって若者が過激化し、外国人戦闘員を雇用している」と指摘しました。その上で「このような主張は嘘であり、絶対に受け入れてはならない。彼らはイスラム教徒ではなく、テロリストだ。」と批判し、若者らが道を誤らないよう対テロ教育や雇用状況の改善が必要なことを強調しました。

また、ISILのソーシャルメディアを活用したプロパガンダに対しては、具体的な解決策として、米国務省が主導して米国、カナダ、北アフリカ、中東、欧州、豪州そしてアジアの大学で対暴力過激主義のデジタルコンテンツを開発しています。加えて米政府と提携しているソーシャルメディア企業や市民社会、宗教指導者らと共に過激主義の思想を衰退させる情報コンテンツを共同開発している事例を挙げました。

CVEサミットでは2014年9月24日に全会一致で採択された国連安保理決議2178に続き、 鍵を握る外国人テロ戦闘員に対する対抗策についても議論されました。

「Politicus USA」Here’s The Facts On What President Obama is Doing To Combat Violent Extremism (2015年2月18日)によれば、イラクやシリアに渡航してISILの戦闘員になった外国人テロ戦闘員の数は約90か国2万人以上に及ぶとのこと。

70か国近い外相級閣僚と潘基文国連事務総長、日本からは中山泰秀副外相が会合に参加し、2015年国連総会に向けてこのCVEサミットで対テロ行動計画策定という一定の成果を得ました。この計画は国連グローバルテロ対策戦略の枠組みを構築する中に位置付けられています。

今回はオバマ政権主催のCVEサミットの成果を振り返ってきました。最後に補っておきたいのはCVEサミットでも「国際社会はソーシャルメディアを通じた暴力過激主義の発する(ISILにとって)合法的で(世界中から参加する潜在外国人戦闘員はISILに)共鳴できる物語性の強いメッセージに弱い」ことが課題とされています。日本中東学会会長の栗田禎子氏も2015年2月5日のPARC緊急集会「イスラム国 人質事件は何を問うているのか」で「イスラム国はバグダーディー国家だと中東の人々を惹きつけて自分たちの行為を正当化しようとする。彼らがやっていることは極悪非道だが、彼らの行為に説得力のある首尾一貫性を持たせるにはストーリーがいる。これまでは日本国憲法9条堅持の平和国家日本に、イスラム国が邦人を殺すというストーリーは成り立たなかった。しかし安倍総理が世界中で軍事行為への積極的平和主義を掲げた経済支援を表明したが故に、欧米と同じ国になってしまったと認識された。これがストーリーとして一応説得力のあるものになってしまった。」と講演しました。今回、CVEサミットに参加した中山泰秀副外相は中東・アフリカ地域のテロ対策能力支援のため、新たに18億4000万円を拠出すると表明しています。戦闘員参加や殺害など新たな犠牲者を自国から出さないためにも、日本もソーシャルメディアを通じた具体策を講じていくのが先決なのではないでしょうか。

「イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北(内藤正典)」の詳細を調べる」

    
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