ドラマ「安堂ロイド」から考える 「自己完結型殺人ロボット」兵器 戦争実現リスクに向けた世界の動向

木村拓哉主演のTBS系列ドラマ「安堂ロイド A.I. knows Love?」。10月13日初回スタート時は19.2%の好視聴率をマーク。前クールドラマ「半沢直樹」の重厚な演技からガラリと様変わりした異色のSF本作に、密かなファンが根付いているようです。物語も中盤に差し掛かり、今後の展開が注目されるところ。

ところが、劇中に登場する木村拓哉扮する「安堂ロイド」始め、近未来から現代に襲来する殺人兵器としてのヒューマノイド型ロボットたちが、今やただのフィクションに出てくるSFではなく、実在する「自己完結型殺人ロボット(Lars:Lethal autonomous robotics)」として開発が進められていると言います。

それによって、既存の核兵器で威嚇、抑止し合う戦争の在り方から、戦争自体の意義を変えるばかりか、軍事手法の選択肢をより人間にとってリスクの少ないものとして無制限にした戦争の在り方へ。紛争も簡単に勃発させられる時代がやってくるであろうと専門家によって指摘されているのです。今回は既存の国際人道法(IHL)に核兵器使用の罰則規定だけでは今後の戦争は抑止できないという強い危機感を持ち始めて、現行法に新たな規定を求めている世界的な動向をみていきましょう。


ロボット兵器管理国際委員会ノエル・E・シャーキー議長が警鐘

今年2013年4月に国連の人権評議会で国連特別調査官クリストフ・ヘインズ氏が前任者を引き継ぎ、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権擁護団体から上がった問題意識を踏まえて新報告書を提出しました。この報告書は、殺人ロボットに関して早期から言及してきた、ロボット兵器管理国際委員会(ICRAC)のノエル・E・シャーキー氏の問題提起が重視されてとりまとめられています。

シャーキー氏によれば、殺人ロボットの先駆けともいえる米国の無人機はCIAによってイラク、アフガニスタン戦争で使用されたことが既に判明しており、パキスタンのみならず、イエメン、ソマリア、フィリピンといった国が標的にされてきたといいます。さらに、殺人ロボットを開発使用している国は米国だけに留まらず、英国、イスラエル、ロシア、中国も当該国としてみなされているのです。

シャーキー氏は「自己完結型殺人ロボット(Lars)」が国際人道法(IHL)に抵触するポイントは3つあると指摘しています。

1:殺人ロボットは戦闘員と民間人を判別できない。
2:殺人ロボットは状況認識や均整の取れた決断を下すために仲介する機関を持たない。
3:殺人ロボットは仲介する機関や道徳を持たない、さもなくば、結果的に自らの行動に対して責任を取ることができない。

例えば、イスラエルの所持する無人機「ハーピー」。レーダーに“人”を感知するとロボットが自己判断で爆弾を投下するシステムになっているのだそうです。つまり、地上に学校があり、その周辺で遊ぶ多くの子どもたちがいるなどという状況を考えると、ぞっとしませんか?

この議論は、赤十字国際委員会(ICRC)の2012年度「インターナショナルレビュー人道主義討論:法律、政策、行動『新技術と戦争』」報告書の中で詳述されています。

シャーキー氏はこれに留まらず、ICRAC議長として、270人以上のエンジニア、コンピューター技術と人工知能の専門家、ロボット工学者、その分野に関連する教授たちに呼びかけて殺人ロボット禁止声明を37ヶ国の専門家の代表として発表しているのです。

パキスタン大使ザミル・アクラム氏が被害当事国として国連に呼びかけ

世界の主要な関心事がシリアの化学兵器廃棄へ向いていた折、同じ10月という時期に開かれていた国連総会第一委員会では、パキスタン大使で駐国連常任代表のザミル・アクラム氏が、

「米国の無線操縦無人機を含む殺人ロボットという新兵器による攻撃を受けている」
「敵対国がスパイ活動や監視のためのサイバー技術の使用を急速に進化させてきている」

と被害当事国として初めて国連に呼びかけていました。アクラム氏自身、非同盟運動に身を投じ、予測に反して、冷戦後から地球規模の安全保障が悪化の一途を辿ってきたことに問題意識を強く持ってきたようです。各国の平等や弱体化されなかった安全保障の枢機卿主義が狭義の私利私欲によって打ち負かされてきたという事実。世界はダブルスタンダードや例外主義、修正社会主義に満ちていました。その延長上として、人間の支配下に置かれない「自己完結型殺人ロボット兵器(Lars)」が登場したのではないかとアクラム氏は見ているのです。 

「無人機の攻撃に女性や子どもを含むなんの罪もない無垢な市民たちが巻き込まれて殺されている。」ことをアクラム氏は訴え、「パキスタンはこれを統治するために国際的な規範を求める。」と国際法に新たな規定事項を設けることが必要だと強調しました。

2013年11月14日—15日に特定通常兵器禁止制限条約(CCW)会合が行われますが、その場でLarsの禁止を求める初協議が行われる予定になっているのです。

■ ロボット工学は人間の使い方次第で平和利用できる

そもそも殺人ロボットとは、米国のブルッキングス研究所上級研究員のピーター・W・シンガー氏が2009年に早々と上梓した「ロボット兵士の戦争(原題:Wired For War)」を契機として、翌年の第65回国連総会で初めて取り上げられたことが世界の限られた首脳に知らされた発端でした。

しかし、この時点では「殺人ロボット技術開発」のトレンドとして報告され、「自己完結型殺人ロボット(Lars)」という人間の管理下に置かれない殺人ロボットではありませんでした。前述のアクラム氏と同じ第一委員会に出席していたICRCの軍備管理部長キャスリン・ラワンド氏は「米国は遠隔操作できる無人機を国際人道法の規定違反ではないか、調査しなければならない」と強く主張しつつも、「(殺人ロボットは開発、既に使用されているが、)人間の管理下に全くおくことなくして機動しているLarsに
関しては(調査によると)今のところまだ存在していないようだ」としています。

皮肉なことに、世界に殺人ロボットを知らしめる発端となったシンガー氏はフォーリン・ポリシー10月22日に寄稿した「来るレーザー、サイボーグ、殺人ロボットの時代について、チャーチルは私たちに何を教えられるのか」記事で、ロボット工学の平和利用の可能性について示唆しています。

国防高等研究計画局(DARPA)研究によると、グーグルとフォルクスワーゲンが現在共同開発している自動運転自動車や無人飛行士民間航空機といった輸送手段の2015年度実用化のみならず、ついにロボット工学は人間パフォーマンス修正(HPM)技術の実現が目の前に迫っていることを伝えているのです。既に実用化されて久しいペースメーカーなどの医療分野のみならず、スタミナ、集中力、学習能力を高めることさえも可能だという未来予想図が、シンガー氏の目には早くも映っているようです。

いかがでしたか?世界の「自己完結型殺人ロボット兵器(Lars)」阻止の動きとロボット工学を取り巻く事情が伝わったでしょうか?実はこうした中、米ニュースクール大学のピーター・アサロ准教授が来日し、6日午後、外務省を訪れ、野口泰軍備管理軍縮課長と会談して殺人ロボット兵器の開発を禁止する条約の制定に向けて、日本政府の協力を求めたとNHKが報じました。科学は人間の用途次第で平和利用できると。

しかし、いつの時代も科学者が道を踏み外すと軍事産業と結びつき、市民に甚大な被害が及ぶことは、原爆の父と言われたユダヤ系米国物理学者レオ・シラードが、その研究の特許をイギリス海軍や米国のルーズベルト元大統領に売り込んだという歴史的事実をみても明らかです。

「科学者や国家全体が私たち有権者をミスリードした時、どうすればいいのか?」という苦い教訓は、時代を経て核兵器から殺人ロボットに殺戮の手段が変わっても忘れてはならないことと、記憶しておきたいものですね。

「ロボット兵士の戦争(P.W.シンガー)」の詳細を調べる」

    
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