ソチ五輪の背後で蠢くロシアのサイバーテロリスク

2014年2月8日(日本時間)に開幕したソチ五輪。男子ハーフパイプでは平野歩夢選手(15)と平岡卓選手(18)が、それぞれ銀メダルと銅メダルを、ノルディック複合NHでは20年ぶりに渡部暁斗選手(25)が銀メダルを獲得。また、日本中の期待に応えて男子フィギュアスケートの羽生結弦選手(19)が日本フィギュア史上初の金メダル、男子スキージャンプ個人ラージヒルで日本代表最高齢の葛西紀明選手(41)が銀メダルを獲得し、スキージャンプ団体では「チャーグ・ストラウス症候群」という難病を抱えながら闘った竹内拓選手(26)らが銅メダルを獲得するなど、熱闘が繰り広げられ、終盤を迎えています。

しかし、知られざるところでソチ五輪の外国人観光客に米政府と安全保障の専門家が警告しているのは、ソチがサイバーテロの戦場になっているということです。外交官やビジネスの指導者、各国のセレブなどが訪れることで、たいていの国際行事はハッカーにとってソチは魅力的な場所。ロシアが世界でサイバー犯罪を最も恐れているのは明らかです。

実は、2013年12月30日にコウカサス・アノニマスと呼ばれるハッキング集団が、ソチ冬期オリンピック2014年の準備を止めないなら、「ロシア政府に対する大規模なサイバー戦争の脅威に晒す」と警告していました。このサイバー犯罪者集団は2013年の秋期にロシア中央銀行のWEBサイトにDDos*1と呼ばれる攻撃を仕掛けていました。ソチには、19世紀にツァールロシア軍の申し立てにより100万にも及ぶサーカシア人(北コウカサス民族集団)の大虐殺を行った戦争にその動機をもつ歴史的背景があります。コウカサス・アノニマスは、ロシアで「サーバーに感染させ、破壊する。(それによって)ソチに報いを受けさせる」と宣誓していたのです。

■イスラム過激派ワッハーブ派との知られざるサウジアラビアとの関わり

HISジェーン・インテリジェンスによれば、「コウカサス・アノニマス」がソチ五輪競技に対し、サイバー攻撃を成功させるだろうとは「にわかには信じがたい」ものだとしていました。

しかし「コウカサス・アノニマス」のようなサイバーテロリストは3つの理由から巨大な戦略地政学上の脅威をもたらすとロシア当局は警戒を強めています。

1:ロシア経済に計り知れない損害をもたらす
2:サイバープロパガンダを通して即時かつ安易にグローバルな支援を得て勢力を再編することができる
3:北コウカサスを拠点とするテロリストの指導者にも手に負えない、独立した何の地位もないテロに走る者が国際政治を変えられる可能性がある

かねてから、ロシア連邦政府は北コウカサスに拠点を持つテロリスト集団を警戒してきました。サイバーテロ以前から、ロシア人とコウカサス人との間で暴動は継続的に勃発しており、特に黒海の東部地域で緊張状態が続いてきたという歴史もあるのです。

北コウカサスはイスラム教徒の多い地域。1990年代初頭から、この地方のチェチェンで独立を求める民族主義者がロシア軍と軍事衝突を繰り返してきました。
「ロシアは地球規模の熱核戦争にエスカレートし得る、政情不安と挑発の主要な標的にされている」と、世界的な政治経済学者のリンドン・H・ラルーシュ氏はロシアに対し、ソチ五輪開幕以前からずっと警告してきました。

ウラジミール・プーチン大統領は国家テロ対策委員会を召集し、万全のテロ対策体制を取ってきました。なかでも、ロシア当局はイスラム過激派のワッハーブ派の人材採掘とダゲスタンやアブハジアにおけるテロリスト養成施設の調査に乗り出していたのです。
コウカサス地域全体がサウジに資金源を持つ聖戦士(ジハード)のテロリストによって侵入されており、彼らは23年前のソビエト連邦崩壊からその地域で主導権を握ってきました。

そしてそこには、サウジアラビア原理主義者誕生の原因となる、ワッハーブ派によるロシア国民のテロリスト雇用という明白な事実が報告されていたのです。
「エグゼクティブ・インテリジェンス・レビューインターナショナル」の上席記者ジェフリー・スタインバーグ氏が寄稿した「帝国はロシアにワッハーブ派テロを仕掛ける」(2014年1月10日)によれば、「ロシアに対する非対称の軍事行動が拡大する中でのサウジの役割は、文書化されている間にも、政情不安と戦争の挑発という背景で等しく、実はイギリスが重要なのだ」と言います。

「10年以上もイギリスはモスクを通じてアフガニスタンで傭兵を雇用してテロリストを養成することを促していた。シリアのアサド政権に対抗する市民軍での闘いを経験した後、南部ロシアへ戻ってきたのはチェチェンのジハード戦士達だ」というのです。

「2000年には、モスクワがイギリス中のモスクを通じてイスラム過激派テロリストの開かれた雇用を追及し、イギリス政府に莫大な数の外交抗議を提起していたという事実もある」とスタインバーグ氏は暴露しているのです。
ソチ五輪開幕を目前に控えた2013年10月と12月にヴァルゴグラードで起きたテロ事件。

「プラヴダ・ドット・アールユー」(2014年1月6日)によれば、憂慮すべきことに、このヴァルゴグラードテロは、北コウカサスのような民族集団ではなく、イスラム過激派ロシア人ワハービ派のテロとしての事象ではないかとロシア連邦議会でも議事の俎上に挙っていました。近年、北コウカサスのワッハーブ派地下組織に、ロシア人民族集団が流入しているというのは、明白な傾向にあると報じています。

ワッハーブ派によるロシア国民のテロリスト雇用がサウジアラビア原理主義者誕生の原因となったという前述の事実。
そのサウジアラビアの情報大臣、バンダル・ビン・スルタン王子は昨年プーチン氏に「ソチ五輪を無事に執り行いたいなら、シリア問題で手を組もう」と持ちかけ、プーチン氏ににべもなく断られていました。さらにシリアのヨルダン大使にバンダル王子はアルカイダの実際の指導者であるとまで公言されていたのです。

ロシアの政治外交紙「イズベスチヤ」コラムニストのキリル・ベネディクトフ氏は「サウジアラビアの情報大臣のバンダル・ビン・スルタン王子がその後イギリスとアラブの報道機関によって『プーチンを恐喝する目的だ』と叩かれたことにより、「和解」を申し出て二度に渡り渡露した」と指摘しました。その上で「湾岸諸国のイスラム過激派の一派『サラフィー・ジハード』政権の中でも特にサウジアラビアがワッハーブ派のテロリズムを支援してきたことには疑いの余地はない」と糾弾したのです。

■米露は揚げ足取りを止め、即時サイバーテロ防衛協力を

これまで米露中国はサイバー空間を規制する国際人道法の基準を新たに設ける必要性があると対抗策を練る意向を示し、米中間では、ネット環境の安全保障と透明化を維持する協力を準備してきました。

世界では戦争という軍事行為から時代はサイバーテロという見えない戦局へ移行し、核兵器の代わりにスパイを持つことで牽制し合っている時代なのです。
「ロシア・ビヨンド・ザ・ヘッドライン」(2013年6月7日)「米露中首脳、サイバーテロリズムに取り組む会合」によれば、ロシア戦略研究所の専門家アレキサンダー・ベドゥリスキー氏は、「モスクワが国際社会に議論を呼んでいるサイバー空間と直面した国家の関係づけを主導してきた」ことを指摘しました。

ロシアでは既に、対サイバーテロ国際多国間提携(IMPACT)や欧州安全保障協力機構(OSCE)のテロ対策班と同等に、国連国際電気通信連合の分派と協力関係を構築しているのです。

2009年に米国が今日直面している最も深刻な経済的かつ国家安全保障への挑戦の一つはサイバーであるとバラク・オバマ米大統領は呼称しました。
「ザ・ディプロマット」(2014年2月7日)は「ソチの脅威:露米国のサイバーテロ対策に向けた協力関係の必要性」報道で、「米国とロシアはより安全保障における関係性の強化に向けて着実に歩みを進める機会を逸するべきではない。

2013年4月15日のボストンマラソン爆弾テロの後、米露の高官は互いに首謀者のチェチェン系テロリスト、ツァルナエフ兄弟の攻撃を未然に防ぐことができなかった失態を責め合ったことを指摘し、どのくらいの米連邦捜査局(FBI)員がソチの冬期五輪会場に出入りすることを許されたのか。米国とロシアは無駄な言い争いを今すぐやめ、そのサイバーテロ犯拿捕に向け、協力関係を築くべきだ。」との持論を展開しているのです。

■サイバー防衛が脆弱な米国、群を抜くロシアの防衛特殊班

サイバーテロによる攻撃力が群を抜くのに対してその防衛力には脆弱な米国とは違って、ロシアのサイバーテロ防衛能力は米国のそれを遥かに凌ぎ、世界でも屈指の能力です。

ロシア政府はサイバー戦争防衛特殊班を結成することに注力するロードマップを発表しました。ロシア軍の最高上級指揮官筋によると、サイバー防衛特殊班結成に向けて、2017年までにサイバー犯罪に対する今後のさらなる防衛能力の向上を図っていく計画だと言います。

既に養成訓練も始まっており、2013年7月早々にはロシア国防相のセルゲイ・ショイグ氏は「(サイバー攻撃に対抗すべく)軍部のソフトウェアが必要なので、それに合致する重厚なプログラムを新規で刷新しなければならない」と語りました。

ロシアはこれまで過去数年に渡り、サイバー攻撃の標的に晒されてきました。
ロシア連邦政府は2007年10月に遡り、「テロリズム専門委員会」の会合で、「サイバーテロ―テロ目的のインターネット利用」を議事の俎上に挙げています。
ロシア連邦刑法典は分離罪体または資格を付与する特色として、テロリストの犯行目的のためにサイバー空間を誤った目的で使用することについての法規制を含んでいません。

しかしながら、そのようなテロ行為は法規制未整備に付け入って、ロシア刑法典第25条「テロ行為」や第205条1項の「テロ活動の支援」、第205条2項の「テロ活動やテロの公的正当化への公共扇動」下で、テロ目的のため、サイバー空間を誤用することを容認することになりかねない状況でした。

これは第272条「コンピューター情報への不正アクセス」と第274条「コンピューターと情報の記憶、処理、または送信する手段と、通信ネットワークの不適切な使用」の法規制の網をもかいくぐれる抜け道をテロリストに与えかねないものとして問題視され、議論されました。ロシアは国力を投じて早期からかようなサイバーテロ犯罪を取り締まる法的未整備に危惧を抱いてきたのです。

こうした経緯を経て現在、ロシアのコンピューター専門家によると、ロシア政府はサイバー犯罪に対抗すべく、国をあげてハッカー集団と協力し、指揮してきた背景が挙げられると語っているのです。

いかがでしたか?日本にはまだ馴染みの薄いサイバーテロかもしれませんが、世界ではサイバー空間にスパイを持つことで抑止し合っている新たな戦争の形が世界では常識化しているのですね。著名なライターのヴァレリー・マレヴァニー氏によると、実は昨年メディアで賑わった元CIA職員のエドワード・スノーデン氏をロシアは欲しているとの情報もあります。現在のサイバー防衛力をさらに高めるため、ロシアには戦略的サイバー部隊を創設するのにスノーデン氏の力が必要だというのです。

関係筋によれば、現在は中国諜報機関のために働き始めたというスノーデン氏は、いずれはロシアへ発つだろうと見られていると言います。ソチ五輪というスポーツの祭典で、メダルには届かずとも有終の美を飾った女子スキーモーグルの上村愛子選手(34)や、自身の集大成と6位入賞の男子フィギュアスケート高橋大輔選手(27)。女子フィギュアスケートのショートプログラム15位からフリーで6位まで巻き返した涙の浅田真央選手(23)。初出場で4位入賞を果たした女子スキージャンプの高梨沙羅選手(17)らの活躍の陰には、ロシア連邦保安庁(FSB)当局の「人命を守る」という使命感でアスリートを警護する立役者がいることも忘れないでおきたいものですね。

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*1:DDos(Distributed Denial of Service)
複数のネットワークに分散する大量のコンピューターが一斉に特定のサーバーへパケットを送出し、通信路をあふれさせて機能を停止させてしまう攻撃。(「IT用語辞典e-Words」)

    
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