仏週刊新聞社「シャルリー・エブド」襲撃テロ事件から約1ヶ月 戦争加害者としてのジェンダー  なぜ女た

2015年2月3日。またしてもフランスで襲撃事件が起きてしまいました。南部ニースでユダヤ系施設前で刃物を所持した男が警備兵士3人を襲い、2人が軽傷したと「AFP通信」(2015年2月4日)が報じました。

2015年1月7日に起きた仏国週刊新聞社「シャルリー・エブド」の風刺漫画家と編集者襲撃連続テロ事件から約1ヶ月。アラビア半島のアルカイダ(AQAP)のテロネットワークのイエメン支部が犯行声明を発表したこの事件では、女性テロリストのハヤト・ブーメディエンヌ氏ただ一人だけが仏国の国境を越えてシリアのイスラム国へ逃れ参画したとみられています。南部ニース警備兵襲撃事件と約1ヶ月前のテロ事件との関連性は薄いと見られてはいるものの、今や世界規模でテロの激震が走っています。

ブーメディエンヌ容疑者がイスラム国(ISIL)のようなイスラム過激派組織に参画してしまっていたとしても、彼女がそのような欧州人の初の女性ではないとCBSニュースのホーリー・ウィリアムズ記者は報道しました。Paris attacker’s widow apparently escapes to Syria (2015年1月12日) という記事によれば、これまでに何百というイスラム教徒の女性や少女らが欧州からテロ組織の戦場当事国に旅行して、そのままISILやアルカイダに参画してしまったという事例が散見されるからだ、としています。

このような「加害者としてのジェンダー論」に焦点を当てると、ややもするとテロ支援と思われる読者の方もおられるかもしれません。しかし作家でドキュメンタリー監督の森達也氏は次のように指摘しています。

「『被害』と『加害』の2つの視点を交錯させる。普通の人が残虐な戦争の加害者となることができる理由と戦争のメカニズムが明らかになる」と。

今回は、なぜかくも女性たちはテロへと身を窶したり、戦場へ赴くのか?被害者からの視点だけではなく、加害の視点を獲得することをも試みていきましょう。


■聖戦士とのロマンスを夢見てISILへ 待ち受ける過酷な現実

イスラム国に参画する欧米の女性たちの中でもフランス人は最多数に上るそうです。地域によっては63人もの女性聖戦士(ジハード)がおり、全体の約25%にも該当するのだというのです。

英仏のイスラム国志願兵の多くは無垢なティーンエイジャーで紛争や信念などに理解がなく、ジハードとの結婚と子供を産むことを夢見るロマンチックな考えを抱き、イスラム国が傭兵雇用に活用するソーシャルメディアで、彼女たちはイスラム国と簡単に繋がってしまう。

しかし、自ら志願して行った先で起こる現実は、少女たちのそれとは全く違っていました。マサチューセッツ大学教授のミア・ブルーム氏もドイツのテロリズムリサーチアンドセキュリティーポリシー研究所所長のロルフ・トフォヴン氏も女性たちがレイプされ、虐待され、奴隷として売られて結婚を強要されてきたと英「ガーディアン」紙はSchoolgirl jihadis: the female Islamists leaving home to join ISIS fighters(2014年9月29日)という記事で報じました。

前述のブルーム氏は自著のBombshell: Women and Terrorismの中で、何が女性たちをテロに駆り立てるのかを国際関係学とジェンダー学双方の研究学者として解き明かしています。ブルーム氏は以前暴力行為を行うテロリストだった女性たちの事例研究を敢行し、いかなる影響を受けているのかを探り当てるために心理学的洞察をもった綿密なリサーチを組み合わせました。その結果、女性テロリストたちは、男性と同等にただ血に飢えた残虐な人間になることができていた間、彼女らの動機はより込み入った奥深く複雑なものになりがちだったという傾向が見られたのです。また彼女たちの殉教者としての奉仕は、実際にはより多くの者たちが無理矢理肉体的な脅威にさらされてきたものであり、社会を制御する他の手段によって、テロ行為を行わされていた、という結論をブルーム氏は導き出していたのです。

■欧米の女性兵士「ジェンダー・ニュートラル」時代の幕開け

なぜ女たちは戦場へと向かうのか?「戦争と平和の国際関係学 地球 宇宙 平和学入門」岩木秀樹著(論創社)によれば、女性兵士問題はジェンダー研究とともに国際関係学研究においても、試金石となっている。女性も男性並みに権利を獲得することは重要であるが、軍は破壊と殺しの専門家を養成する機関であり、そこに入ることにより権利や人権が認められ、民主化が進むということは矛盾している。また軍隊に人道性を求めることは難しいであろう。女性兵士とは女性の権利獲得であると共に、女性の国民化であり、国家や戦争の論理に絡め取られる危険性もはらむ。としています。

しかし世界では米軍や英軍に参画する女性兵士の在籍数が数多みられ、女性軍人が常態化した欧米の軍部では今、女性軍人の地位向上を獲得せんとする新たなフェミニズムの幕開けが既に始まっているのが現実のようです。

米国防省は地上第一戦線で、これまでまかり通っていた定義と就任指令原則の2013年度撤廃に続き、女性に機会が閉ざされていた任務とあらゆる例外を認めることを維持し、統合すると、2016年1月についての政策決定を下しました。

米国防省指揮監督将校で下士官兵管理官のジュリエット・ベイラー氏は、2015年9月までに、女性軍人が作戦上の重要な価値を持つ全ての任務において、性的区別をなくすことを確実にする。法的有効性を持たせることができる「よき進歩だ」と米国防省ニュースの「ザ・ウーメン・イン・サービス・レビュー」の中で報告しました。

「女性の活躍する機会を拡充させているのは、私たちが既に2013年から公表してきた7万1千人を含むもので、指揮官たちはより柔軟に広範に渡る要員たちに資格を付与してきた。そしてそれは全ての有志軍を強化することにも繋がるだろう。」

米国ではこれまでに28万人以上の女性たちが、二度の戦闘経験を持つ女性軍人のベイラー氏を含めイラクやアフガニスタンに配備されてきました。
「私は革命戦争からの戦闘に従事してきた女性だということを誇りに思うが、近年配備された私たち28万の女性軍人は計り知れない方法で(米国に)貢献してきた。」

また英国でも動きがみられます。マイケル・ファロン英国防相は英軍規則でこれまで禁止されてきた女性の歩兵隊を2016年からは解禁すると発表しました。

BBCラジオ4’s Todayの番組にファロン氏が出演し、「女性は男性と丁度同じくらい合理的に戦うことができる。」と述べ、「軍にもなすべき小さな作業はあるが、私は軍人の選抜には今からはジェンダーを基本にするのではなく、(各自の)能力を基本において選ぶべきだ、と考えている。」という意向を示しているのです。

■ アイデンティティの危機から武器を取るISILの女性兵士達

中央ヨーロッパ大学(CEU)公共政策大学院 紛争・交渉・復興センター(CCNR)研究員のニミ・ゴウリナサン氏はイスラム国(ISIL)に参画する女性たちの動機を「ジェンダーに起因する不当な扱いではなく、自分の民族的、宗教的、政治的アイデンティティへの危機感、あるいは脅威に対抗するためであることが多い。」と「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(2014年No.10)寄稿論文「イスラム国の女性兵士たち」の中で指摘しています。ゴウリナサン氏はイスラム教スンニ派とシーア派の宗派間抗争の中でマイノリティ集団が巻き込まれているISILのテロ戦争の構図を解説。その上で女性だけで構成された「アル・ハンサ旅団」を一例に挙げ、「新兵のリクルートをめぐって、抑圧されていると感じている若い女性をターゲットにスンニ派としてのアイデンティティ意識に訴えている。カリフ制イスラム国家建設の戦いに参加するよう呼びかけるファトワ(宗教令)に応じて、独身のスンニ派女性たちがすでに『イスラム国』に参加している。」と、女性兵士たちを募る手口を示しました。

イスラム国の過激派女性兵士たちを真に理解するには、既存のメディアが「女性は犠牲者」「男性は加害者」として報じる傾向の強い原理原則と思い込みを捨て去る必要があります。さもなくば戦争加害者としてのジェンダーへの理解が進まないことによって、アイデンティティ問題が解決できない戦争が長期化することをゴウリナサン氏は危惧しているのです。

対して、イスラム国と果敢に戦っているクルド人女性兵士達もいます。「人民防衛隊」(YPG)です。YPGはシリアのクルド人防衛のために組織されました。イラク北部にゲリラ拠点を置くクルド人組織のクルディスタン労働者党(PKK)が指揮する民主統一党(PYD)傘下の武装部隊だそうです。

「AFP通信」(2014年10月12日)Kurdish woman leading Kobane battle against IS: activistsという記事から、YPGの女性兵士武装部隊はナリン・アフリンのコードネームで知られる女性戦闘員マイッサ・アブド氏(40)が率いているようです。YPGの女性兵士の平均年齢は、18歳から20代と非常に若い世代で構成されているとか。

イスラム国のテロリスト集団は「女性に殺されるとアッラーの在られる天国には召されない」という教えを信奉しているため、YPGのような女性部隊との交戦を恐れているのだ、と中東のドキュメンタリー番組による、YPGが捕虜にしたイスラム国戦闘員へのインタビューから明らかになりました。

「ロイター通信」(2015年2月3日)のOne group battling Islamic State has a secret weapon- female fightersという記事によれば、2015年1月末にPYD内部のクルド高等評議会が宣言した新クルド人自治政権はロジャヴァ憲法に基づくアジェンダ「男女平等」を掲げています。クルド人女性部隊では男性が指揮をとるのではなく、女性指揮官が男性や男女混合の部隊を指揮することが認められているのです。クルド人武装部隊において、性構成と階級制は非常に独特なものだ、と報じています。

2014年7月2日からイスラム国による本格的な攻撃を受けていたシリア北部の町アイン・アル=アラブ(クルド名:コバニ)で、クルド人勢力の中心の一つが陥落寸前となるなど、厳しい戦況の中戦ってきた、クルド人武装部隊と米国を始めとする有志連合軍は2015年1月26日についにコバニを奪還しました。しかし、イスラム国は新たにイラク北部の油田都市キルクークに侵攻。クルド人対テロ部隊と治安部隊ペシュメルガがこれを死守しています。

「産経新聞」(2015年2月3日)で同紙記者が18歳のクルド人女性兵士に「なぜ戦うのか?」単独インタビューを敢行していました。「コバニの領土と人々の命、暮らしを守りたい。」と女性兵士は答え、「多くの仲間が死んでいったが、死ぬのは強くない。敵に捕まったら自決する」と付け加えました。

捕虜になったら性奴隷にされるなど容易に想像できる抑圧されたイスラム社会に生きる彼女たちは、命を懸ける覚悟があり、死ぬことを恐れていないのです。

今回は戦争加害者としてのジェンダーを考察してみました。年が明けて早々起きた仏「シャルリー・エブド」連続テロ事件からひと月も経たないうちに、1月22日にはイスラム国による邦人人質事件が起き、2人の日本人の尊い命が犠牲となってしまいました。また、これに呼応するかのようにパキスタン、リビア、エジプト、ナイジェリアなど、世界中でイスラム国のイデオロギーに共鳴したテロ集団が行うテロ事件の横行にまで波及しています。ニッポン放送「高島ひでたけのあさラジ!」(2015年1月28日)に出演した元外務省主任分析官の佐藤優氏は「『シャルリー・エブド』テロ事件はイスラーム国による世界イスラーム戦争の宣戦布告だ」として「世界全体を彼らが支配しようという妄想のようなもので、アラビア半島からフランス、アメリカ(の手)を引かせる」意味合いがあると指摘しました。

国連でも全会一致でイスラム国に対する非難決議が直ちに下され、日本の安倍首相は日本のテロ対策組織である「特殊作戦群」の強化と在外公館への「防衛駐在官の派遣」を打ち出し、政策は一気に自衛隊法改正、国民保護法を発動せず、容易に軍備増強できるように安全保障関連法案のテコ入れの流れへとなだれ込んでいます。このようなタカ派、強硬の右傾化国防立法制定への動きは、日本人が至宝としてきた「平和憲法9条」の憲法改正にも繋がりかねません。

日本の主要リベラルメディアのみならず、対テロ強硬姿勢の安倍政権に海外メディアからも警鐘の報道がなされています。

忘れてはならないのは「シャルリー・エブド」連続テロ事件はほんの序章に過ぎなかったという加害の分析のみに留めず、テロ事件の被害者遺族の方達が「報復は望まない」と涙に泣きぬれても武力行使では解決できないと痛みの中で切に訴えた言葉の重みの方ではないでしょうか。

「イスラム国(ISIL)邦人人質殺害予告事件から考える 対テロ情報戦略術」の詳細を調べる

    
コメント