父権は崩壊した?

父権と呼ばれるものがあります。母性に対して対比されるような概念と言いましょうか。強力なカリスマ的なマッチョが強力な指導者として振る舞うものです。アメリカ大統領のドナルド・トランプなどが代表的でしょうか。しかし父性というのは、強引さの象徴でもあり、セクハラやパワハラなどの源泉ともされています。

必要なのか?

そうした父性、父権について考えた本が橋本 治による『父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない』 (朝日新書)です。本書は、死の直前まで書き続けられた時評エッセイ集というべきものでしょう。橋本治は『広告批評』(マドラ出版)においても長年にわたって時評を掲載していました。今を考えること、さらには明確な結論ではないものを考えることによって、世の中が見えてくるものがあるのでしょう。

歴史との接続

橋本治の魅力といえば、博覧強記の知識ではあるでしょうね。それをきちっと今に結びつける、今がどういう場所にあるのかを位置づける作業に長けていたと言えます。それはいわば歴史との接続というべきものではあるでしょう。「父はえらい」「男はえらい」といった時代はとっくの昔に崩壊しているのだということをきちっと証明しているのです。さらには、そこからなぜ我々は脱却できずに、父権制の亡霊のようなものにずっととらわれ続けているのか。その長年の謎について、誰もが知る社会的なトピックから解き明かす橋本のセンスは唯一無二者だったと言えるでしょう。

男の役割についても

さらに本書は結婚や組織といった男の役割についても、あらたな提言を行っています。これまで当たり前にあったものは、なぜそこに当たり前にあり続けており、なおかつ間違いを続けてきたのだろうか。その謎の一端が明らかになる本となっているのではないでしょうか。何よりも著者は死すとも、言葉は残り続ける希望を感じ取れる一冊でもあるでしょう。